八犬伝の後裔

高 木  元 


八犬伝は江戸読本を代表するテキストであると同時に、その豊穣な伝奇世界の魅力ゆえ少なからざる研究史が形成されてきた。しかし、その大半は基本的に本文執筆時に遡る典拠論や構想論が主流であった。板本の書誌調査研究や挿絵の解読、当時の流行を裏付ける歌舞伎化や錦絵、さらには抄録本に就いての紹介もなされてきたが、それらも近世期止まりで、明治期以降にまで目配りをした研究は甚だ少ない。管見の及んだものでは、青木稔弥「『八犬伝』と近代」(『讀本研究』第七輯上套)、青木稔弥「馬琴の読まれる時」(『江戸文学』九)や、柴田光彦「桜井鴎村の八犬伝校略」(『讀本研究』第七輯上套)が備わっているくらいである。

斯様に八犬伝の受容史に関する研究が乏しい中にあって、とりわけ印象深かったのは内田保廣「いまどきの八犬士」(『讀本研究』第六輯上套)である。コミケと呼ばれる同人(個人)漫画誌交換販売会で流通している〈八犬伝もの〉マンガを紹介しつつ、これらの作者たちが〈原話〉の現代語訳やコミックなどを通じた二次三次受容をしていること、映画やアニメなど映像とテキストが同様に扱われていること、玉梓と伏姫の対立構造が用いられたものが多いことなどを分析し、ポストモダンの呪縛から解放された双方向メディアとしての同人マンガ誌について論じ、逍遙が「仁義八行の化け物」とした犬士の形象なども、彼等は〈立ったキャラ〉として自在に把握していることなどを指摘している。

そこで、本稿では内田氏の提起した受容論の驥尾について、現代に至るまでの八犬伝の受容史を展望してみたい。

八犬伝の受容史を検討するにあたって不可欠な基礎作業として、〈八犬伝もの〉の定義と分類を試みなければならない。まず、『南総里見八犬伝』の早印板本を〈原本(オリジナル)〉とする。江戸読本の持つ顕著な特徴であるが、八犬伝の場合も板本自体に装飾的な美しい意匠が凝らされている。口絵挿絵のみならず見返や飾枠の意匠に就いても、馬琴自身が稿本で下書きを示して指定しているが、その指定が反映されるのは早印の段階だけである。さらに、未だ証拠は見出せていないが、製本過程を異にする表紙の意匠に関しても、初板早印に限っては馬琴が関与していたものと想像できる。

一方、二十八年間もの長きに渉った八犬伝の完結までに、何度も後印本が摺られていた。のみならず完結後も明治三十年過ぎまでは確実に後印本が出されていたのである。結果的に後印本には幾つかの異なる摺本(エディション)が存在する。後印本には、その改訂が馬琴自身の手に拠ってなされたものと、後年になって馬琴の与り知らないところで板元に拠ってなされた改竄とがあり、この点は明確に区別する必要がある▼1

ところで、明治期の八犬伝板本について、小池藤五郎「解説」(旧版岩波文庫『南総里見八犬伝』第三巻、一九三七年)には次のように記されている。

『八犬傳』の版本は明治になつて和泉屋吉兵衞・兎屋等の手に移り、遂に博文舘の所有となつて現存する。版木の所有者がその時々に刷出したので、名山閣版・稗史出版社版・博文舘版その他の後刷本が遺されてある。これらの後刷本の多くは、册數を變じ、口繪を缺き、原本の體裁は見る由もない。原版木使用の最後は、明治三十年に刷出した博文舘版の三十七册本である。

東京名山閣(和泉屋吉兵衞)版は一部分のみ確認しているが、刊行年代や冊数などの全体像は未詳。また、稗史出版社版は板本ではなく活字翻刻本である。一方、明治三十年博文舘版とは、全九輯五十三巻 半紙本三十七冊、表紙は小豆色地絹目に唐草模様、外題「南總里見八犬傳 一(〜三十七)」、見返「曲亭馬琴著作\南總里見八犬傳\東京 博文舘藏版」(赤色地墨摺)、刊記「明治三十年七月二十八日翻刻印刷\明治三十年七月三十一日發行\發行兼\印刷者 日本橋區本町三丁目八番地 大橋新太郎\發兌書林 東京市日本橋區本町三丁目 博文舘」という刊記を持つもので、木箱(高さ四十七糎×幅十八糎×奥行二十六糎)に収められている。なお「博文舘出版圖書目録」(創業二十週年記念發兌「太陽増刊」、明治四十年六月十五日、博文舘)に、「曲亭馬琴翁著(本箱入)全五十册(大判三〇五一枚)\[和装並製]南總里見八犬傳 正價九円五拾錢\小包料六拾四錢」と見えているのは、冊数は異なるが同様の板本であろうか。実物は未見であるが、もし明治四十年に出ていたとすれば、原板木を用いて摺られた最も新しい板本ということになろう。

このような板本諸本の流布相を踏まえた上で、オリジナルの早印板本テキストに対して如何なる変容が施されているかという観点から、以下のように分類をしてみた。

A 翻 刻(リプリント)……整版以外のメディア(主として活版)として作成された全文テキスト。

B 抄 録(ダイジエスト)……梗概を記したテキスト。

C 改 作(リメイク)……八犬伝を踏まえて新たに創出されたテキスト。

D 外伝化(スピンオフ)……八犬伝の登場人物を別の世界(物語)に嵌込んだテキスト。

E 戯曲化……歌舞伎・浄瑠璃・映画・ドラマなど芸能化されたテキスト。

F 図像化(ビジユアル)……文字テキストを主としない視覚化された画像テキスト。

G 蘊 蓄(トリビア)……八犬伝に纏わる蘊蓄を記述したテキスト。

H 翻 訳……八犬伝を異言語化して記述されたテキスト。

I 研 究……八犬伝を研究批評の対象として論じたテキスト。

例えば、〈B 抄録〉は、草双紙・切附本・絵本・活版本・児童書・マンガなど種々のジャンルに渉って存在しているので、整理する上ではジャンル分けも不可欠である。

そこで、本稿では手許の資料を中心として、原本以降に作成された〈八犬伝もの〉を整理分類して、その広範な受容の様相を俯瞰してみたい▼2

  A 翻 刻(リプリント)

八犬伝の翻刻本は明治十五年頃から活版和装本で出版され始めるが、東京稗史出版社版(明治十五年十一月〜十八年三月)は半紙本仕立(和紙袋綴)の全編にわたる翻刻である。各輯巻頭の口絵だけを薄墨板まで覆刻するも原板木を使用したものではない。第九輯三十二巻の巻末広告に「畫圖原本飜刻」とあるが、原本を摸して新たに作成された版を用いたもので、別の画工に拠って描き直された挿絵ではないという意味のようだ。黄土色表紙の半紙本で全四十二冊、挿絵の大部分は省かれている。第三輯までが明治十五年十一月、第七輯までが明治十六年三月、第九輯巻十八までが明治十六年十一月、第九輯巻三十二までが明治十七年四月、第九輯巻五十三までが明治十八年三月に出されている▼3

その後も明治二十年以前に四種ほどの和装活字本が出版されていたことが確認できる。ところが、明治二十年を過ぎると洋装の活字本が出てきた。とりわけ明治二十六年に博文館が出した帝國文庫『南総里見八犬傳』を見るに、手許の本の刊記は「(上巻)明治二十六年六月十三日印刷\明治二十六年六月十六日發行〜明治四十五年六月十五日卅二版發行 定價金七拾五錢、(中巻)明治二十六年六月廿七日印刷\明治二十六年六月三十日發行〜明治四十四年十一月廿六日廿六版發行 定價金七拾五錢、(下巻)明治二十六年七月十五日印刷\明治二十六年七月十八日發行〜明治四十四年十一月十四日廿三版發行 定價金七拾五錢」とあり、明治四十年過ぎに至るまで多くの摺りを重ねていることが確認できる。これ以外にも、袖珍文庫をはじめとした叢書や全集類にも八犬伝は必ずといって良いほど入れられているのである。

今ここで全ての翻刻本を網羅的に論う余裕はないが、『〈国立国会|図書館所蔵〉明治期刊行図書目録』第四巻「語学・文学の部」(一九七三年)や青木稔弥「曲亭馬琴テキスト目録―明治編」(『読本研究文献目録』、溪水社、一九九三年)に就けば、より具体的な様相が明らかになる。

分類には悩ましいが、原文を抜粋した『馬琴妙文集』(四六判、文學同志會、明治三十一年四月)や、桑田春風編『曲亭馬琴文粋』(南總里見八犬傳の巻、新書判、岡村書店、明治四十五年二月。内題「南總里見八犬傳鈔」)など、所謂〈妙文名文集〉の類が少なからず出ており▼4、此等にも八犬伝の一部分が翻刻されている。

さて、翻刻本の最新刊は新潮社版『南総里見八犬伝』(新潮日本古典集成別巻、全十二巻、二〇〇三〜四年)である。これと岩波書店版『南総里見八犬伝』(全十巻、一九八四〜五年)とを比較するに、単に大きな活字を用いてゆったりと組んだだけではなく、まま誤植が目に付く岩波版に比して新潮版は格段に精確な本文を提供してくれている。その上、岩波版の難点であった口絵挿絵の図版も鮮明に印刷されており、岩波版では省かれていた刊記や広告もほぼ翻刻してあり、現時点での最善の活字テキストではあるが、残念なことに表紙や見返などの図版を欠いており、文字通り画龍点睛を欠くこととなってしまった。なお、目下八犬伝の完璧な翻刻と全注釈とが共同作業として進行中である。

  B 抄 録(ダイジエスト)

おそらく八犬伝の後裔としては抄録本が一番多いと思われる。近世期に於いても、草双紙化された『仮名読八犬伝』や『犬の双紙』をはじめとして、原文を切り貼りした鈍亭魯文『英名八犬士▼5(全八冊、袋入本〈切附本〉、安政三〜五年)などが存する。

とりわけ十九世紀末に流行した講談化されたテキストが目に付く。例えば、西尾魯山口演・井上士青速記のシリーズ「講談里見八犬傳の一(〜十)(菊判、岡本偉業舘、明治三十六年一月〜三十七年一月)は、発端と結末以外は八犬士の銘々伝として再構成された所謂速記本で、各冊巻頭に一図の色刷折込口絵を備え、十五席ほどに区切られている。各冊のタイトルは、一『里見伏姫』、二『犬塚信乃』(未見)、三『犬川荘助』、四『犬飼現八』、五『犬田小文吾』、六『犬坂毛野』、七『犬山道節』(未見)、八『犬村大角』、九『犬江親兵衛』、十『八犬士勢揃』。板元の岡本偉業館は大阪の本屋で同種の速記本を多く出している。なお架蔵本には「相州三浦郡南下浦 渡邊」という貸本屋印が捺されており、この手の講談速記本が貸本屋を通じて広く流布していたことが分かる。

講談本に関しては、吉沢英明氏の労作である『講談明治期速記本集覽』(眠牛舎、一九五五年)以下、『講談明治期速記本集覽』第二輯(眠牛舎、二〇〇〇年)、『續講談明治期速記本集覽』(眠牛舎、二〇〇四年)などから『講談作品事典』全三冊(眠牛舎、二〇〇八年)に至る一連の基礎研究の成果に就けば、単行本のみならず新聞連載や新聞附録などにも夥しい〈八犬伝もの〉を見出すことができる。

手許には戦後に出された、宝井馬琴演『里見八犬伝』(長編講談、B6判、冨士屋書店、一九四八年)や、少年痛快講談編集部『里見八犬傳』(少年痛快講談全集9、B6判、太陽少年社、一九五四年)、『里見八犬伝』(少年講談全集10、B6判、大日本雄弁会講談社、一九五七年)などがあるが、どうやらテレビが普及する一九六〇年代になると講談本の出版数が激減するようである。

八犬伝の主人公が少年であることと相俟って、所謂〈児童書〉として現代語訳ダイジェストの出版が目に付く。古くは、藤川淡水『〈お|伽〉八犬傳』(四六判、大正堂書店、一九一一年〈一九一二年の以文館版存〉)や、上田杏村訳『八犬傳物語』(日本兒童文庫、四六判、アルス、一九三〇年、非売品)、山本徳行『少年八犬傳』(春陽堂少年文庫39、春陽堂書店、一九三三年)、三島霜川『〈少|年〉里見八犬伝』(四六判、金の星社、一九三五年)などがある。

児童書は戦後になってからも出版が続き、北村謙太郎『八犬伝ものがたり』(児童名作全集、A5判、偕成社、一九五七年)、円城寺健『里見八犬伝』(少年少女世界名作集40、B6判、鶴書房、刊年未詳)、植村諦『里見八犬伝』(少年少女物語文庫28、集英社、一九六〇年)、尾崎士郎『八犬伝』(少年少女世界名作全集31、四六判函入、講談社。一九六二年)、高藤武馬『里見八犬伝』(私たちの日本古典文学選、A5判、岩崎書店、一九六五年)、村松定孝著・坂本玄画『里見八犬伝』(小学生の日本文学全集10、A5判函入、學燈社、一九七〇年代)、福田清人編著・中込漢画『南総里見八犬伝』(ジュニア版・日本の古典文学、四六判、偕成社、一九七三年)、加藤武雄『里見八犬伝』(少年少女世界の名作28、B6判、偕成社、一九七三年改訂版)、『南総里見八犬伝・伊能忠敬・東海道膝栗毛・他』(少年少女世界の名作47日本編3、B5判、小学館、一九七四年)は村上元三訳。福田清人訳・百鬼丸絵『八犬伝』(青い鳥文庫、新書判、講談社、一九九〇年)は、『八犬伝』(ジュニア版・日本の古典文学、偕成社、一九七三年)をリライトしたもの。しかたしん『里見八犬伝』(日本の名作、新書判、ポプラ社、一九九二〜四年)の挿絵は村井香葉、かなり自由なダイジェスト。栗本薫編訳・佐伯俊男絵『里見八犬伝』(少年少女古典文学館22、A5判、講談社、一九九三年)古那屋までのダイジェストで、その後は粗筋。高田衛「解説」、高木元「頭注」を付す。この他にも多数が出版されてきている。

マンガ化されたダイジェスト版も児童書の範疇に入れて良いのかもしれない。 石山透『新八犬伝』全九巻(ひかりのくに古典名作マンガ、ひかりのくに、一九七三〜五年)は、五巻以下未見だが九巻まで出たようだ。辻真先構成・居村真二画『南総里見八犬伝』(コミグラフィック日本の古典17、変形B5判、曉教育図書、一九八八年)は一部カラーで原本の挿絵をまじえた解説付きダイジェスト。徳田武監修・宮添育男画『マンガ南総里見八犬伝』全三巻(マンガ日本の古典、B6判、河出書房新社、一九九一〜二年)も、古典文学に関する啓蒙を意図した企画である。

一方、碧也ぴんく『八犬伝』全十五巻(ニュータイプ100%コミックス、B5変形判、角川書店、一九九一〜二〇〇二年、初出は「月刊ニュータイプ」〈一九九〇年四月増刊GENNKI春号〉〜「月刊ミステリーDX」〈二〇〇二年七月〉)▼6、コミケなどの八犬伝もの流行と軌を一にしたものである。後に文庫本化し、『八犬伝』全八巻(ホーム社漫画文庫、ホーム社、二〇〇四〜五年)となるが、八巻目に文庫版描き下ろし「番外編 親兵衛京ものがたり」(四〇頁)と「八犬伝文庫あとがき」(二頁)とを新たに収録。

特に児童書と銘打ってないものもある。岩波文庫の新版が出るまで板本の口絵挿絵を見るために、そして変体仮名が読めるようになるために重宝されていた全巻の縮写影印本として『南總里見八犬傳』(日本名著全集江戸文藝の部16〜18、B6判、日本名著全集刊行會、一九二七年)がある。この各冊冒頭に載せられた内田魯庵「八犬傳物語」は326頁に及ぶ全編の梗概で、併載されていた物語年表と共に要領を得たものであった。

戦後、一番版を重ねていると思われるのは、白井喬二『南総里見八犬伝』(日本国民文学全集15 16、菊判、河出書房、一九五六年)で、回毎のダイジェスト。『南総里見八犬伝』(国民の文学16、四六判、河出書房新社、一九六四年)の語句注は池田弥三郎、年譜は麻生磯次、解説は花田清輝。『南総里見八犬伝』(〈カラー版|現代語訳〉日本の古典23、菊判、河出書房新社、一九七一年)は、多田道太郎「解説」と柴田光彦編「馬琴関係年譜」と同氏解題・訳「回外剰筆」『犬夷評判記』が付されている。『南総里見八犬伝』(日本古典文庫19、河出書房新社、一九七六年)は、一九七一年版の文庫本化。柴田光彦氏の担当部分を削除している。さらに近年『現代語訳 南総里見八犬伝』(河出文庫、二〇〇四年)として出されている。

山手樹一郎『八犬伝物語』(世界名作全集50、四六判、講談社、一九六〇年)は庚申山までの自由なダイジェストで、那須辰造「解説」と玉井徳太郎の近代的な挿絵を備える。鈴木重三『弓張月・里見八犬伝』(さ・え・ら書房、一九六三年)。図版を多用した杉浦明平『南総里見八犬伝』(グラフィック版日本の古典16、世界文化社、一九八〇年)には、武藤元昭「馬琴の稿料生活」、徳田武「解説・南総里見八犬伝」他を付す。これに基づき、原本の挿絵や錦絵の写真を止めて再構成し、解説や論文は削除され新たな資料を付したのが『南総里見八犬伝』(ビジュアル版日本の古典に親しむ13、B5変形判、世界文化社、二〇〇七年)。このほか、寺尾善雄『八犬伝物語』(B6判、光風社出版、一九八三年)は、巻頭に地図と主要登場人物紹介を載せ、巻末に「『八犬伝』余話」として二十八頁余の解説を付す。藤江峰夫『南総里見八犬伝』(長編ダイジェスト5、B6判、有精堂、一九九四年)は、原本と対照できるようにエピソードに即して回数を示す、鈴木邑『南総里見八犬伝』(現代語で読む歴史文学、B6判、勉誠出版、二〇〇四年)、湯浅佳子『南総里見八犬伝 名場面集』(B6判、三弥井書店、二〇〇七年)は、巻頭に「解説」を置き、原文に通釈を付して各場面の間を粗筋で補っている。石川博『南総里見八犬伝』(ビギナーズ・クラシックス、文庫判、角川学芸出版、二〇〇七年)は、手軽な文庫本一冊に原文に訳文と原本図版を付し、理解を助けるためにコラムと解説とを載せる。

以上、主として手許の本だけを挙げてみたが、国会図書館のサイトから NDL-OPARC を使うと、まだかなり多数のダイジェスト本を拾うことができる。予想以上の点数が継続的に出版され続けているわけで、つまり、それだけの需要が継続的にあったものと考えることができる。

  C 改 作(リメイク)

ここで挙げる改作本とは、〈八犬伝の世界〉の枠組みを利用しながらも、原話とは別のストーリーに仕立て直されたテキストである。近世期にも既に出されていて、八犬士を八賢女に仕立て直した為永春水『貞操婦女八賢誌(ていそうおんなはつけんし)(六輯九編、天保五〜嘉永元年頃)や、八犬伝の筋を活かしつつ艶本化した慕々山人(鈍亭魯文)佐勢美八開仕(させみはつかいし)(三巻三冊、安政四年)、八犬士の次世代を描く後日譚である為永春水『八犬傳後日譚』(七編十四巻、嘉永六〜安政四年)などが好例である。

まずは、小説ジャンルから見て行こう。山手樹一郎『新編八犬伝』(現代長篇名作全集9、四六判、大日本雄弁会講談社、一九五三年)は、『新編八犬伝』(新書判、講談社、一九五八年)、『新編八犬伝』(山手樹一郎長編時代小説全集12、文庫判、春陽堂、一九九七年?)と、何度も出されている。 岡荘太郎『艶筆 里見八犬傳』(艶筆文庫2、新書判、文芸評論社、一九五六年)は、巻頭の「艶筆文庫刊行に当たつて」に、エロ本とは一線を劃し古典の大衆化をめざした愛情における道徳の文学としてのエロスを意図したシリーズだ、とある。島田一男『競艶八犬伝』(東京文芸社、一九五八年)も時代小説。後に『競艶八犬伝』(忍法小説全集七、新書判、東都書房、一九六四年)、文庫本化時に改題され『月姫八賢伝』(徳間文庫、一九八八年)となる。山田風太郎『忍法八犬伝』(平和新書、新書一冊、徳間書店、一九六四年)は、一九六七年〜一九九九年に至るまで実に七回に及ぶ多くの版を重ねている▼7。佐江衆一『神州魔風伝』(B6判、講談社、一九九四年。初出「デーリー東北」〈一九九二年七月二十九日〜一九九三年四月二日〉)は長編時代小説。後に、『神州魔風伝』(講談社文庫、一九九七年一月)と文庫化された。これらの時代小説には剣豪の愛欲を主題化するという独特の書式があって、謂わば大人の向け官能小説という風情でもある。

一方、石山透『新八犬伝』全三冊(B6判、日本放送出版会、一九七四〜五年)は、NHK連続テレビドラマのノベライズ版で、挿絵は人形を制作した辻村ジュサブローが描いている。これは従来の時代小説とは一線を劃すリメイク。二〇〇七年にブッキングから復刊された。

荒川法勝『真説 南総里見八犬伝』(傑作時代小説叢書、B6判、青樹社、一九八〇年代。初出『新・南総里見八犬伝』〈「千葉日報」一九八〇年十一月三十日〜一九八一年十月二十一日〉)は、連載に加筆し改題したもので、巻末に石井冨士弥「解説(あんない)」を付す。 鎌田敏夫『新・里見八犬伝』(カドカワノベルズ、新書判、一九八二年)は、角川映画の原作なのであるが、時代小説風読物である。ちなみに、映画のシナリオは別に出版されている。

以下、九十年代に入ると所謂ライトノベルが一世を風靡し、八犬伝改作ものが多く出されるようになる。橋本治『ハイスクール八犬伝』全八冊(トクマ・ノベルズ・ミオ、新書判、一九八七〜一九九一。初出「SFアドベンチャー」〈一九八七年六月〜一九九一年十月〉)は未完。 大野木寛『八剣伝』全四冊(ネオファンタジー文庫、大陸書房、一九九〇〜二年)はファンタジー・ライトノベル。作者は題名のもじりと八人の剣士の登場程度の関係という▼8。久美沙織『獣蟲記』(講談社ノベルズ、新書判、一九九四〜五年)二巻の題名は『双頭の蛇 獣蟲記 二』、未完。鳥海永行『聖・八犬伝』(電撃文庫、メディアワークス、一九九五〜七年)には西村博之のイラスト。 辻真先『迷犬ルパンと里見八犬伝』(光文社文庫、一九九六年)は、「迷犬ルパン」シリーズの一作、「文庫書下ろし/長編ユーモア・ミステリー」と標題に書き添えてある。 よしむらなつき原作・伊田あやか著『小説 里見☆八犬伝』(コミックノベルズ、新書判、エニックス、二〇〇〇年)は、コミックのノベライズ版。 鳴海丈『乱華八犬伝』二冊(TOKUMA NOVELS 新伝奇、新書判、二〇〇四年。初出「問題小説」〈二〇〇一年一月〜二〇〇四年十一月〉)は、初出に加筆修正を加えた上で最終章「兇女復活」を書き下ろしたもの。挿絵は八月薫。徳間文庫『乱華八犬伝』(二〇〇七年)はトクマノベルス版を一冊にまとめた上、一部加筆修正、八月薫の挿絵は削除されている。 植松三十里『里見八犬伝』(小学館文庫、二〇〇六年)は大森美香脚本によるTBSドラマ『里見八犬伝』を原案とする小説。 小野裕康『少年八犬伝』(B6判、理論社、二〇〇六年)、「一九八八年版の復刊に際して大幅に加筆改稿した」とある。 弘也英明『厭犬伝』(四六判、新潮社、二〇〇七年十一月)。 米村圭吾『紅無威おとめ組 南総里見白珠伝』(大江戸チャーリーズエンジェル第二弾、幻冬舎 二〇〇八年五月)は時代小説、馬琴も登場する。

以下はマンガとして描かれた改作ものを見て行きたい。 古くは、木下としお『少年八犬伝』(「ぼくら」附録、一九五五年十月一日)や、原作の筋を追ってはいるが自由な設定の元で描かれている三町半三『八犬伝』(小学六年生付録、B6判、小学館、一九五六年十一月号・同十二月号・一九五七年一月号)は「宝刀村雨丸の巻・決闘芳流閣の巻・完結編」の三部作など少年雑誌の附録として出されたものがある。 遠崎史朗原作、中島徳博画『アストロ球団』全二〇巻(ジャンプ・コミックス、集英社漫画文庫、初出「少年ジャンプ」〈一九七二年 39〜一九七六年 26〉)、『アストロ球団』全五巻(B6判、太田出版、一九九九年三月〜九月)は、体のどこかにボール型のアザを持つ昭和二十九年九月九日午後九時九分九秒生まれの九人の超人たちが、打倒巨人、打倒米大リーグを掲げ、世界最強の野球チームを結成するもの。 本宮ひろ志『群竜伝』全四巻(コミック判、講談社、一九七九年、初出「週刊少年マガジン」〈一九七二〜三年〉)も野球漫画。後に「本宮ひろ志傑作集」(第八〜十巻)所収、文庫版全三巻も存、さらにe-book化もされていてオンライン購読できる。 灘麻太郎作・北野英明画『麻雀八犬伝』全三巻(コミック判、グリーンアロー出版社、一九八四年)は文字通り麻雀マンガであるが謎解きにもなっている。 『ドラゴンボール』全四十二巻(コミック判、集英社、初出「週刊少年ジャンプ」〈一九八四年 51〜一九九五年 25〉)、『ドラゴンボール完全版』全三十四巻(A4判、集英社、二〇〇二〜四年)は番外編『TRUNKS THE STORY −たった一人の戦士−』を収録する。吾妻ひでお『贋作ひでお八犬伝』(PLAY COMIC SERIES、コミック判、秋田書店、一九八五年、初出「月刊プレイコミック」〈一九七九年八月〜八〇年五月〉 )。 犬木加奈子『八犬伝説 妖怪里見中学』一巻(SPコミックス、コミック判、リイド社、一九九九年)未完。 渡瀬悠宇『ふしぎ遊戯』全十八巻(フラワーコミックス、コミック判、小学館、初出「少女コミック」〈一九九二〜六年〉)は朱雀七星士を集める旅に出る朱雀の巫女の話、文庫本は『ふしぎ遊戯』全十巻(小学館、二〇〇三年)。 碧也ぴんく『ニューエイジ八犬伝 BLIND GAME ブラインドゲーム』全十巻(ASUKAコミックスDX、角川書店、一九九六〜二〇〇一年、B6、初出「月刊ミステリーDX」〈一九九五年一〇月〜二〇〇一年二月〉)は、近未来に設定された八犬伝のリメイク版で、原話からの伏線が多く張られている。『ブラインドゲーム』全五巻(あすかコミックスDX、角川書店、一九九六〜二〇〇一)は文庫化されたもので、AnotherSTAGE「何処にもない場所」(初出「幻想ファンタジー翡翠抄」〈二〇〇六年一〇月、ホーム社〉)と「文庫版あとがき」とを収録。 よしむらなつき『里見★八犬伝』全六巻(ガンガンコミックス、コミック判、エニックス、一九九八〜二〇〇二年、初出「少年ガンガン」〈一九九七〜二〇〇一年一一月〉、「外伝」「番外編」などは「増刊ガンガンWING」〈臨時増刊号〉)。 石川賢『魔空八犬伝』全三巻(講談社漫画文庫、一九九九年、初出「ベアーズクラブ」〈集英社、一九八八〜九〇年〉)。 水野十子『遙(はる)かなる時空(とき)の中(なか)で』一〜十六巻(花とゆめコミックス、コミック判、白泉社、二〇〇〇年七月〜二〇〇九年七月。初出「ララ」〈二〇〇〇年二月〜〉など)は未完。ゲーム等との所謂メディアミックス。 巳蔦汐生、太田顕喜原作『風ノ華 〜魔龍八剣伝〜』一〜三巻(DENGEKI COMICS、メディアワークス、二〇〇五年七月)には「第一部」とある。 中島かずき『ジェノサイド』二巻(双葉社アクションコミックス、コミック判、双葉社、二〇〇五年、初出「週刊漫画アクション」〈二〇〇四年八月二十日号〜十二月二日号〉)は、小林拓己画、サブタイトル「真田十勇士 vs 里見八犬士」。 藤田まぐろ『シズカ八犬伝』(りぼんマスコットコミックス、新書判、集英社、二〇〇六年)。 あべ美幸『八犬伝 〜東方八犬異聞〜』一〜十巻(いち・ラキ・コミックス、B6判、冬水社、二〇〇五年十月〜二〇〇八年十二月)。 石田敦子『新逆八犬伝・アウトカラーズ』一〜三巻(少年画報社、二〇〇八年十一月〜二〇〇九年十月、初出「ヤングキングアワーズ」〈二〇〇八年五月〜〉)は未完、犬猫対立の枠組みに主人公・伏彦を守るのが八少女となっている。
青山剛昌『名探偵コナン』七〇巻(少年サンデーコミックス、B6判、小学館、二〇一〇年十一月二十三日、初出は「週刊少年サンデー」二〇一〇年二四〜三〇号)に収められた「魔犬・怨霊・犬伏家・玉・足跡・姫・仁義八行」という一連の話(File 734〜740)が、タイトルからも分る通り八犬伝の改作と成っている。

その後、携帯コミックサイトで公開されていた影日昇『キャバクラ八犬伝』一〜二(メディアファクトリー、二〇〇九年八月・二〇一〇年七月)が出た。江川達也『戦国 里見八犬伝 Episode Zero』(リイド社、二〇一〇年五月)も「ケータイまんが王国」で二〇〇九年二月から配信されたものを単行本用に再編成したもの。伏姫物語に至る以前の時代を描き、原文の引用や原作の龍の講釈を現代語訳している点などに特徴がある。
光文社BLコミックシリーズで、くるわ亜希(原作 天美幸)『学園八犬伝』(光文社、二〇一一年八月一〇日)は、ミュージカルとしても上演されるらしい Boys Love ものである。初出(未見)は「Pureri Vol.10〜15」(二〇一〇年四月〜二〇一一年六月)とある。番外編12頁が加えられている。未完。

同人(個人)マンガ誌の蒐集には着手していないが、偶然手許にあるのは、 佐藤かおる『八犬伝異聞(八犬伝傭兵騎士団)(一九九〇年七月)、 『八犬伝 BATTLE ROYAL』(NEVER LAND、一九九一年八月)、 しおせ順『〈南総里見〉八犬傳 狭間其之弐』(一九九二年一二月)など。 少し古い情報ではあるが、前述した内田論文「いまどきの八犬士」 (「読本研究」六上、一九九二年)を参照していただきたい。

これらのマンガに関しては、まだ多くが洩れていると思われるが、取り敢えず管見に入っただけ挙げてみた。

パロディも同様であるが、改作本の作者が粉本とするテキストは、広く人口に膾炙したものである必要がある。その意味では、刊行途中で既に歌舞伎化されて上演されたり、草双紙化されたりして人気のあった八犬伝は典拠として使うのに申し分がなかった。しかし、現代においては既に原本で読んでいる読者はほとんど居ない。前述のダイジェストや映画、ドラマを通じて「筋」を知っているに過ぎない。にも関わらず、斯様に多くの改作が作られ続けるのは、〈珠と痣(ステイグマ)とを持つ八人(ほど)の少年(時に少女)達が奇しき運命のもと邂逅離散して悪と闘う〉という枠組み、すなわち〈世界〉としての八犬伝が機能しているからであろう。

  D 外伝化(スピンオフ)

外伝に分類できる要件は、八犬伝の登場人物たちが固有名詞を持ったまま別の世界に入り込むという点である。 たとえば、平岩弓枝『へんこつ』▼9二冊(A5判、文藝春秋、一九七五年)は、馬琴本人が登場し八犬伝の登場人物を擬した人物達と大捕物をする。また、虚(八犬伝)と実(馬琴)の世界を往還する山田風太郎『八犬傳』▼10二冊(四六判、朝日新聞社、一九八三年)も外伝といえよう。 津島佑子『逢魔物語』▼11(B6判、講談社、一九八四年)に所収された「伏姫」も同様。野中美弥『「里見八犬伝」外伝 万木城炎上』(B6判、文芸社、二〇〇二年)もある。

コミックとしては、湯浅みき『唐獅子牡丹』(八犬伝序の幕外伝、幻冬舎、二〇〇七年、初出「月刊コミックバーズ」〈二〇〇七年四〜八月〉)があり、冒頭部では特に大輔を大きく扱う。 また、碧也ぴんく「SUKI! スキ」十二号(B5判、PB企画、一九九一年八月一六日)は同人(個人)誌で執筆を開始した八犬伝のサイドストーリー的なものを載せている。他の号は未見、全部で何号出たのか不明であり、碧也氏自身も手許に保存していないというレア物。(どこかで揃ってみられないものであろうか……。)

この分類は、当該テキストに何処まで八犬伝の世界を読み取るかという恣意的な要素も含まれるが、基本的には〈八犬伝とは別のプロットに八犬伝の世界を背景化した登場人物が固有名詞を伴って登場するもの〉という定義が可能かも知れない。

  E 戯曲化

ここには、演劇・映画・ドラマ・アニメなど活字媒体以外のものを分類する。古くは西沢一鳳作『花魁莟八総』(天保七年初演)、『里見八犬伝』(嘉永五〜六年、市村座初演)以来、現代に至るまで何度も歌舞伎浄瑠璃が上演されてきた。最近では二〇〇六年八月に国立劇場で上演されたが、公演毎に出される『国立劇場上演資料集』には、上演記録などが載せられている。 市川猿之助のスーパー歌舞伎『八犬伝』(一九九三年四月十日〜五月二十三日、新橋演舞場初演)は、横内謙介に拠って改作された脚本に拠り、地方を含めて幾度となく上演された。 遠藤宣彦演出『八人の犬士たち』(第一回国際児童フェスティヴァル、一九九三年八月、日生劇場)や、宝塚歌劇団宙組によるバウ・ロマン『里見八犬伝』(二〇〇三年八月十六日〜二十二日、日本青年館ホール初演)。 第三エロチカの座付き作者川村毅脚本『完本 新宿八犬伝』全五巻(A5判、未来社、二〇一〇年)第一巻の初出は「新劇」八五年四月号。 伊藤万里子企画脚本演出、川本喜八郎の創作人形による『南総里見八犬伝』(二〇〇五年十一月二十日、千葉県文化会館小ホール)や、板坂則子ゼミ台本・仙道作三作曲『オペラ八犬伝』(二〇〇六年一月二十八日・二十九日、北とぴあ さくらホール)、関美能留構成・演出、夏の野外劇Vol.4三条会の『八犬伝』(二〇〇九年七月二十四〜二十九日、亥鼻公園)、 西田大輔作演出のアクション時代劇「深説八犬伝−村雨恋奇譚−」(二〇一一年二月十一〜二十四日、シアタークリエ)、 天美幸原作・脚本・作詞のミュージカル、美童浪漫大活劇《第三部》「学園八犬伝」(二〇一一年八月十八〜二十一日、全労済ホール/スペース・ゼロ) などが上演されている。

映画も網羅はできていないと思われるが、五十年代に多く創られたようである。 河野寿一監督、東千代之介主演『里見八犬伝』(一九五四年、東映)は「妖刀村雨丸」「芳流閣の龍虎」「怪猫乱舞」「血盟八剣士」「暁の勝鬨」の五部作、 渡辺邦男監督、若山富三郎主演『妖雲里見快挙伝』(一九五六年、新東宝)は前後二編、 内出好吉監督、里見浩太朗主演『里見八犬傳』(一九五九年、東映)は「里見八犬傳」「里見八犬傳 妖怪の乱舞」「里見八犬傳 八剣士の凱歌」の三部作。 深作欣二監督、真田広之・薬師丸ひろ子主演『里見八犬伝』(一九八三年十二月十日公開、東映・角川映画)には、鎌田敏夫『シナリオ 里見八犬伝』(角川文庫、一九八三年)が出ている。

ドラマとしては、 連続テレビ人形劇『新八犬伝』(一九七三年〜一九七五年、日本放送協会)が記憶に新しい。前述の通り石山透に拠るノベライズ版が出ている。一回・二十回・最終回のみビデオが残っていて、VHS や DVD で入手可能。また、劇場版『新八犬伝』第一部 芳流閣の決斗 (一九七五年三月十五日公開、東宝)も DVDで見ることができる。 役所広司主演『合い言葉は勇気』(二〇〇〇年、フジテレビ系)では八犬士の名前が登場人物名に使われていた。鈴木あみ主演『深く潜れ 〜八犬伝二〇〇一〜(二〇〇〇年、日本放送協会)は輪廻がモチーフ。大森美香脚本・滝沢秀明主演『里見八犬伝』(TBSテレビ放送五〇周年ドラマ特別企画、二〇〇六年一月二〜三日、東京放送系)には、ドラマを基にした植松三十里作の伝奇ノベライズ『里見八犬伝』(小学館文庫、二〇〇五年)がある。

アニメは、『THE 八犬伝』(OVA全六話、一九九〇年、AIC)、『THE 八犬伝 〜新章〜』(OVA全七話、一九九三年、AIC/GENEON ENTERTAIMENT INC.)、 『神八剣伝』全二十六話(一九九九年四月三日〜九月二十五日、テレビ東京系)は後に「月刊Gファンタジー」(エニックス)に連載。、 『ヤッターマン』第八〇話「サトミ三犬伝だコロン」 (タイムボカンシリーズ、一九七八年)▼12などがある。

地方公演などの情報を細大漏らさず集めるのは困難であるが、ドラマのノベライズなど、演劇化されたものと文字媒体とが相互にメディアを代えて出されることが多く、現象として面白いと同時に記録として参照できる点はありがたい。また、国立劇場では映像資料の蓄積をしており、過去の上演が閲覧できることや、CS放送で公演が流されることもあり、上演という厳密な意味での一回性を追究しなければ、戯曲化されたテキストを参照することは以前に比べて容易になりつつあると思われる。

ただし、現時点での調査が行き届いていない「八犬伝ものゲーム」等が少なからず存する。セガから一九九六年に出された「サクラ大戦」というドラマチックアドベンチャーゲームは、その後ミュージカル・アニメ(OVA、テレビ、劇場映画)・ラジオドラマ・ドラマCD・小説・漫画・パチンコ・パチスロといったメディアミックス作品としてシリーズ化し発展することになる。とりわけ、「サクラ大戦帝国歌劇団スーパー歌謡ショウ」と銘打たれたシリーズで、声優が舞台上でミュージカル仕立ての公演をする企画として広井王子作・演出『新編八犬伝』(青山劇場、二〇〇二年八月十五〜二十五日)がある。このようなメディアミックスの作品群を分節化するのに「戯曲化」という概念では不充分かも知れない。たとえば、パチスロ「神人八犬伝 魔城殲鬼譚」(二〇一〇年四月、Colmo)ではアニメに基づいて犬山道雪忠与・犬飼莞八信道・犬坂祁野胤智・犬村大覚礼儀・犬田小文悟悌頼・犬江神兵仁・伏姫・犬川荘介義任・犬塚志乃戊孝などとして再構成されている。

  F 図像化(ビジユアル)

文字テキストを主としない視覚化されたテキストであるが、明治初期に銅版による夥しい量の絵本が出版される。 国会図書館の資料に架蔵本を加えて列挙すれば、 『八犬伝』(和装小本一冊、島村吉松、明治十六年十月)、 『繪本八犬伝(和装小本一冊、金栄堂・町田滝司、明治十七年九月)、 牧金之助『八犬伝』(和装小本一冊、深川屋豊、明治十八年四月)、 『里見八犬伝』(和装小本一冊、井上吉次郎、明治十八年五月)、 『〈繪|本〉里見八犬傳』(和装小本一冊、堤吉兵衛、明治十八年)は外題「梅堂國政画・加賀屋板」、見返「郷見八犬傳/津々美梓」、 『絵本里見八犬伝』(和装小本一冊、尾関トヨ、明治十九年二月)、 『〈繪|本〉里見八犬傳』(和装小本一冊、中村淺吉、明治二十年六月)、 『八犬伝』(和装極小本一冊、澤久次郎、明治二十年七月)、 『繪本八犬伝』(和装小本一冊、金壽堂・牧金之助、明治二十年八月)、 『絵本里見八犬伝』(和装小本一冊、末吉菊松、明治二十一年六月)、 甲斐山久三郎『〈繪|本〉里見八犬傳』(和装小本一冊、中村淺吉、明治二十一年七月)、 『里見八犬伝』(和装小本一冊、森本順三郎、明治二十一年九月)、 山本常次郎『繪本八犬傳』(和装小本一冊、隆湊堂、明治二十二年三月)、 『里見八犬傳』(和装小本一冊、井上市松、明治二十二年六月)、 『〈絵本|実録〉里見八犬伝』(和装小本一冊、金壽堂・牧金之助、明治二十三年八月)、 『里見八犬傳』(和装小本一冊、綱島亀吉、明治二十三年)は見返「銅刻實説双紙」、 『繪本八犬伝』(洋装小本一冊、金壽堂・牧金之助、明治二十四年五月)。 長谷川小信画『絵本里見八犬傳』(和装小本一冊、文成堂・長尾佐太郎、明治二十七年六月)、 『〈繪入|小説〉里見八犬傳(和装中本一冊、綱島亀吉、明治三十一年三月) という按配である。

艶本化された八犬伝も少なくなく、林美一『秘板 八犬伝』(秘板三部作〈花の巻〉、緑園書房、一九六五年)は、八犬伝諸板書誌研究や挿絵研究の先駆的業績であり、基礎研究として艶本秘画と錦絵の目録を提示している。また、『恋のやつふじ』が艶本として有名であり、嘗て林氏が『夜の国芳』として複製を出されていた。本文も備えて読む部分もあるのでパロディの一種として〈C 改作〉に分類すべきかもしれないが、色刷りのバレ絵がふんだんに用いられているので、「見る」方に重きがあると判断した。〈定本●浮世絵春画名品集成6〉『國貞【恋のやつふぢ】』(林美一、リチャード・レイン共同監修、河出書房新社、一九九六年)は、ほぼ原寸大のカラー複製をしており最善のテキストである。また、林美一「戌歳にちなむ錦絵と『艶色八犬伝』」(「季刊浮世絵」89、画文堂、一九八二年)も有用。

出版事項未詳の『第六巻 南総里見八犬傳』(三十糎×二十一糎、折本一冊、帙入り)は、巻頭に福田和彦「絵巻「南総里見八犬傳」について」、巻末に「作品解説」を附した絵巻を折本仕立にした複製本。解説に拠ると「この画巻の著者、製作年代は一切不明であるが、その筆致を見るに、江戸末期の歌川派の絵師の彩管によるものではなかったか。製作年代は明治期であろう。彩色褪せぬ美しさを保っている。紙本着色、タテ二十五センチ、ヨコ一景約四十センチ。無落款。」とある。主として前半部の代表的な場面を抜き出して春画化した全十二景。

錦絵については多くの出版物にも収められているが、『八犬伝の世界』(展覧会図録、A4変形判、千葉市立美術館・愛媛県美術館、二〇〇八年)が、図録としても劃期的であるが、巻末に労作の八犬伝もの錦絵の一欄表を掲載していて参考になる。また、偶然にも同じタイトルであるが、『八犬伝の世界』(A4縦判、館山市立博物館、二〇〇九年)も、同館で1月31日〜3月8日に開催された特別展の図録として編まれたもの。全てが早印本ではないものの、板本の表紙と見返が大きなカラーで登載されており参考になる。また、この展覧会のポスターには国周画『八犬傳出世雙六』が大きく複製され、図録の末尾には「極新板切組燈篭・八犬伝芳流閣の段」が二枚折り込まれていて、いずれも切り抜いて遊べるよう配慮されている。これら地本問屋が扱った八犬伝ものの玩具類も調査の要があろう。

風変わりなものに『宮田雅之の切り絵 八犬伝』(別冊太陽「宮田雅之追悼号 曲亭馬琴没後一五〇年」、A4変形判、平凡社、一九九八年)がある。

所謂キャラクター商品に類するものも少なくないと思われ、この分野の網羅的な調査が一番厄介かも知れない。

  G 蘊 蓄トリビア

マニアックな解説書も散見する。『爆笑八犬伝』(歴史人物笑史、B6判、光栄、一九九六年)は、主として登場人物ごとに様々な情報と蘊蓄とがまとめられており、名場面の解説も詳しい。また、犬藤九郎佐宏『図解里見八犬伝』(F-FilesNo.016、四六判、新紀元社、二〇〇八年)が最近出たが、ともにゲーム攻略本風の趣きながら、大長編小説を読むための道標として有用であろう。 吉丸雄哉『武器で読む八犬伝』(新典社新書、二〇〇八年)は、八犬伝に出てくる武器を網羅的に調べ尽くした偏執的かつ立派な注釈作業である。

一方、この原稿を書く際に参照した多くのウエッブサイトの中でも、特に「白龍亭」と「伏姫屋敷」とは凄い。この両サイトに蓄積された驚くべき情報量もさることながら、八犬伝に傾けられている情熱には感動すら覚える。斯様な情報こそ「蘊蓄」と呼ぶべきで、リボジトリなどに拠って永く保存する必要があろう。

  H 翻 訳

全編にわたる現代語訳はここに入れる。 【現代語】平島進『新訳南総里見八犬伝』(A5判、昭和図書出版、一九八一年)は意訳、 山田野理夫『八犬伝』全八巻(四六判、太平出版社、一九八五〜七年)、 羽深律『完訳・現代語版 南総里見八犬伝』一〜六巻(四六判、宝島社・JICC出版局、一九八五〜九二年)は未完で終わっている。 丸屋おけ八『全訳・改訂版 南総里見八犬傳』全二巻(菊判、言海書房、二〇〇七年十一月)【英文】ドナルド・キーン(Donald Keen) "Anthology of Japanese Literature from the Earliest Era to the Mid-Nineteenth Century" (UNESCO Collection of Representative Works: European), Grove Pr 1960/03 に〈浜路くどき〉の部分が英訳されている▼13【漢文】菊池三渓遺稿『〈訓|點〉譯準綺語』(尚士堂、一九一一年七月)は、古典の一部分を漢文訳したもので、八犬伝からは「富山仙堂」「圓塚山火定」「芳流閣格鬪」「庚申山怪異」「對牛樓報仇」の五箇所が取り上げられている。 【中国語】李樹果『南総里見八犬伝』全四冊(日本古典文学名著、A5判、南開大学出版社、一九九二年)は、全編の逐語的な中国語訳。簡装版とハードカバーとの二種類がある。

  I 研 究

此処で網羅するのは不可能なので、今は割愛する。国文学研究資料館のデータベースなど参照こと。

以上、やや冗長ながら原本以降に出た『八犬伝』の後裔を追ってみたが、実に多岐に渉って多くのテキストが生産され享受されてきたことが知られる。日本の古典文学で、斯様までに裾野広く影響作が流布しているテキストが『八犬伝』以外に存在するであろうか。古典文学の代表である『源氏物語』に比較しても、裾野の広さと多様性とでは圧倒的に『八犬伝』が凌駕している。その上、居酒屋「八剣伝」や、観光キャンペーン「房総発見伝」などという語呂合わせが頻繁に用いられている。これらの現象を踏まえたポスト十九世紀文学史の構築は、既存の近代文学史を相対化するに充分な可能性を持つと思う。

いまだに調査が行き届いていないが、取り敢えず八犬伝受容の様相を整理するための材料は提出できたと思われる。ただ、もう少しすっきりした形を模索することと、情報自体を網羅的に蒐集することも不可欠であるが、今後の課題としたい。


▼1.服部仁「『南総里見八犬伝』第四輯初印本と後印本の挿絵」(「文学」隔月刊第九巻四号、岩波書店、二〇〇八年七月)
▼2.もとより網羅を志してはいるが、さらなる調査を待たなければ完璧を期すことなど不可能であることは当然で、取り敢えずの見取図として提出したい。
▼3.この稗史出版社版には、近年の出版に掛かるものだと思しき覆刻本が存する。朱色表紙で西洋紙両面にオフセット印刷された厚冊、角布を用いた和装本七冊。赤色紙の見返も原本左側の「東亰稗史出版社藏版」を削除しただけで飾枠までそのまま複製されている。しかしながら、出版事項の記載は一切なく、何時誰がどんな意図で作成出版したものか不明である。
▼4.拙稿「近世後期小説受容史試論―明治期の序文集妙文集をめぐって―」(国文学研究資料館編『明治の出版文化』、臨川書店、二〇〇二年三月)所収。
▼5.「曲亭馬琴作」とする改竄後印本があるが、これ以外に『里見八犬伝』(和装中本八冊、山本常次郎、明治十九年二月)も「佐々木廉助」と改竄されたものである。
▼6.台湾で、ネームを中国語訳した版が出されている。碧也ぴんく『八犬伝』全十五巻、B5変形判、(Tohan Fantasy Comics、台灣東販、譯者:蔡承旭、中華民國八五年〈一九九六年〉)
▼7.上田修一「山田風太郎書誌」参照。
▼8.大野木寛『八剣伝』四冊(スーパークエスト文庫、小学館、一九九五〜七年)は、大陸書房版の再版と継続らしいが未見。
▼9.文庫本化は『へんこつ』二冊(文春文庫、一九八六年)
▼10.こちらは出版を重ねていて『八犬傳』二冊(朝日文庫、一九八六年)、『八犬傳』二冊(角川文庫、一九八九年)、『八犬傳』二冊(特選時代小説 山田風太郎傑作大全 20 21、文庫判、廣済堂出版、一九九八年)と三度出されている。
▼11.文庫本化は『逢魔物語』二冊(文春文庫、一九八六年)
▼12.ウィキペディア「ヤッターマン」に拠る。
▼13.Translationsで読める。「白龍亭」に拠る情報。

附記 ウエッブサイトの URL は2009年11月1日現在のものである。

附記二 館山市の町興しに八犬伝に因む菓子が以前から出されていたが、新館山名物「たてやま八犬伝まんじゅう」が出た。児玉製菓・(有)月見里・(有)ピース製菓・(株)房洋堂の四店合同で「仁義礼智忠信孝悌」の八種類の味覚が楽しめるという趣向。


#「八犬伝の後裔」
#『日本のことばと文化―日本と中国の日本文化研究の接点―』所収(溪水社、2009年10月)所収
# Web版では字体やレイアウトのみならず大幅に変更してあります。また、最新情報を入れるべく
# 適時改訂する予定ですので、情報をお寄せ下さい。
# 2009/11/03 補訂
# 2010/06/25 補訂
# 2010/10/10 補訂(神八犬伝など)
# 2010/12/03 補訂(コナン・少年サンデー付録・SUKI!など)
# 2011/08/12 補訂(深説八犬伝・学園八犬伝など)
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