【解題】
前号に引き続き正本写『今様八犬傳』の五編と六編とを紹介する。
巻末に続刊として犬村大角「赤岩住処の段」の予告が見られるものの、おそらく七編以後は刊行されずに終わったものと思われる。伝存が確認できないのと、合冊された後印本も六編で終わっているからである。
さて、五編上巻「古那屋の段」では、房八と沼藺の犠牲死に拠って犬塚信乃が救われ、彼等の息子である犬江親兵衛が犬士の一人である事が判明する。犬士達が里見家との因縁を知る重要な場面である。原作が古那屋の一室に於いて事件が進行するという、歌舞伎舞台を意識して書かれた場面であるせいか、大きな改変は施されていない。
一方、五編下巻以降は原作の「対牛楼の段」に相当し、凄惨な敵討の場であるが「石浜の段」と変更され、遊里の人々や、小文吾の季の妹として新たに花紫太夫を登場させるなど、全体的に華やかな雰囲気にしている。鴎尻並四郎と妻琴(舩虫)、身をやつした里見義成とその許嫁として四阿等、原作中の人物に新たに設定した人物を絡めた複雑な趣向立である。そもそも、初編の冒頭で描かれた如く、毛野の父である粟飯原首を讒言で陥れ殺害させ、千葉家の重宝である嵐山の尺八を奪った馬加大記は、首の妻稲城と一子夢の助を殺害。籠山頼連は毛野の母親で首の愛妾であった調布を殺害し、粟飯原家の重宝である落葉丸を奪ったのであった。
つまり、本作は犬坂毛野を軸にした千葉家の御家騒動として八犬伝を再構成したものなのである。歌舞伎とは距離を措いた江戸読本の代表作を、無理なく歌舞伎風に再構成した二代目春水の手並みは実に巧妙だと言い得よう。
なお、五編下巻の13丁と14丁とが錯簡しているが、筋は通っているのでそのまま翻刻した。
【書誌】
五編
編成 中本 四巻 上下二冊 十七・七糎×十一・六糎
表紙 錦絵風摺付表紙「今様八犬傳」「第五編」「上(下)冊」「爲永春水作」「歌川國芳画」「(紅英堂\錦耕堂)合版」
見返 (上冊)「今様八犬傳第五編上巻」「爲なかしゆんすゐさく」「一勇さいくによしゑ」「錦耕堂[板]」「とり女画」
(下冊)「今様八犬傳第五編下の巻」「春水作」「国芳画」「蔦吉山口版」「とり女画」
序末 「嘉永壬子彌生望 爲永春水誌[印]」
改印 [米原][渡邉](一オ・十一オ)、[子〓](一オ)
柱刻 「八犬傳五編(一〜二十)」
匡郭 単辺無界(十五・三×十・四糎)
刊末 「國芳画」「春水作」(十ウ)\「爲永春水作」「一勇齋國芳画」(二十ウ)
諸本 慶應義塾図書館(202-508-1-2)・東京大学総合図書館(E24-1019)・館山市立博物館・専修大向井・架蔵/(改題後印本)架蔵
備考 改題後印本「里見八犬伝」は五六編を合冊した一冊で、表紙に「外題 國明画」、見返「里見八犬伝」
六編
編成 中本 四巻 上下二冊 十七・八糎×十一・八糎
表紙 錦絵風摺付表紙「今樣八犬傳」「六編上(下)」「爲永春水作」「一勇齋國芳画」「錦耕堂梓」
見返 (上冊)「今樣八犬傳」「六編上冊」「爲永春水作」「一勇齋國芳画」「(山藤\蔦吉)合梓」「おとり画」
(下冊)「今様八犬傳」「六編下の巻」「爲永さく」「一勇齋ゑかく」「紅英錦耕両梓」「おとり画」
序末 「嘉永六癸丑春新販 爲永春水誌[印]」
改印 [村松][福][子十](一オ、十一オ)
柱刻 「今様八犬傳六(一〜二十)」
匡郭 単辺無界(十五・四×十・五糎)
刊末 「國芳画」「春水作」(十ウ)\「爲永春水作」「一勇齋國芳画」(二十ウ)
諸本 慶應義塾図書館(202-508-1-2)・館山市立博物館・専修大向井/(改題後印本)架蔵
【凡例】
仮名遣いや清濁などは原文通りとしたが、読み易さを考慮して以下の諸点に手を加えた。
・序文以外の本文には、漢字を宛てて私意的解釈を示し、原文は振仮名として残した。
・原文の漢字に振仮名が施されている場合は、( )で括って示した。
・原文の漢字直後に割り書きで訓みが示されている箇所はそのままにした。
・本来「ハ(バ)」は平仮名であるが、助詞だけは「ハ(バ)」のままとした。
・原文には一切使用されていない句読点を補った。
・「なにゝ」を「何〔に〕 」の如く原文にない文字は〔 〕で括った。
・本文中の飛び印 (▲▲や■■など)は省略した。
・全丁の挿絵を掲げ、本文と参照するために丁数を示した。
・底本として慶應義塾図書館蔵本を使用させて頂いた。ただし、破損していた三編四丁は家蔵本に拠った。
【謝辞】
本稿はJSPS科研費25370207の助成を受けたものです。
五編表紙
序・見返
見返 1オ
〔見返〕
今様八犬傳\第五編上巻\錦耕堂板\爲なかしゆん\すゐさく\一勇さい\くによしゑ\とり女画
〔序〕
[米原][渡邉]
いまやうはつけん\でむ五へむの序
三間ならぬ三尺の。机をその侭本舞臺に。作者が胸のひとり狂言。墨と硯の黒幕に。あらを隱せど道具より。しやちで巻てもまはらぬ筆。イヨしかけヱの惡口も。听かぬふりしてにじり書。あつかま四編も綴果つ。爰等でちよつと一管と。おもふところを板元が。幕を引かせぬ例の性急。ついだ莨も飲あへず。煙管をチヨン ト灰吹へ。はたいた音を木のかしらに。又引かへす五編の急案。切幕ならぬ切筆に。詞の花道あゆますれど。赴向につまづく石濱を。拾あつめて一帙に。とやらかうやら草稿を。直しもやらで〓あぐれバ。悪いところハ看官の。お胸におさめて必しも。〓ハ
だんまりの幕としたまへ。
嘉永壬子彌生望 [子三]
口絵第一図
1ウ2オ
三出 犬坂毛野胤智
口絵第二図
2ウ3オ
工藤祐經実ハ籠山勘ヶ由左衛門 大磯の虎実ハ再出花紫
神崎の江口実ハ白拍子妻琴
〔本文〕
3ウ4オ
[四へんのつゞき]
手負ひながらに房八が、真心明す長物語。熟々聞いて小文吾ハ、打驚きつゝ進寄り、勦りながら「房八殿、思掛けなき御身の素性。命を捨て主筋なる犬塚氏に、代らんとハ遖忠義の心延へ。御身の生命を捨てたるハ、只身代りの為のみならず。最前奥に逗留せし念玉(ねんぎよく)といへる山伏『およそ破傷風の妙薬にハ、若き男女の血潮を取りて、年経りたる梭尾貝に入れ、是を呑する其時ハ、立地に本復す』ト問はず語りに言ひつるが、今こそ揃ふ男女の生血。然すれバお沼藺も犬死ならず。とハ言へ、惜ら若者を、親子三人ン同じ日に、同じ所で死なすとハ、惜むべく又恨むべし」ト言ふに、房八莞尓と笑ひ「扨ハ夫婦が血潮にて、主人に等しき犬塚様の、薬に成らバ今際の喜び。死して甲斐ある夫婦が血潮、早く御役に立ててよ」ト言ふに、小文吾点頭て涙飲込み身を起こし、彼念玉が置忘れし梭尾貝を手に取りて、倒れしお沼藺を引起せバ、「苦」と一声叫ぶと等しく、さつと血潮の濆る。其傷口へ梭尾貝を当れバ、滴る唐紅、見るに目もくれ心さへ、弱るばかりに小文吾ハ、口に唱名目に涙、お沼藺ハ細き目を見開き「兄さん、夫ハ未た生てか。心の信実打明けて、言はれし事を夢かとばかり、聞くに嬉く疑ひも、怨みも晴れて諸共に、消へてゆく身ハ惜からねど、惜き名残に
[次へ] 3ウ4オ
4ウ5オ
[つゞき] 今一ト目」ト 言ふに、房八躙寄り「扨ハお沼藺ハ現にも、我本心を聞しとか。思掛けなき過失にて、其方ばかりか大八まで、我手に掛けしも宿世の約束。此世の縁ハ薄くとも、未来ハ必ず変らぬ夫婦」「其お言葉が彼世へ土産、とハ言へ、せめて大八が死顔なりと今一度」「イヤ/\見るハ迷ひの種、只此上ハ小文吾殿、我身の血潮、疾く/\」と言ひつゝ刄を取直し、弓手の腹へ突立れバ「アレまァ些時待て給も」ト 門の戸推開け駆入る妙真、我にもあらで、房八とお沼藺が間に身を投伏し、涙ながらに「なう房八、兼ての覚悟と言ひながら、嫁さへ孫さへ諸共に、返らぬ途に旅立〔た〕せ、此身一つを何とせう。お沼藺ハ訳を知りながら、告げぬ我身を怨みもせんが、斯う成る事と知るならバ、何しに其方を送らうぞ。許して給も」ト言掛けて、又潸々と打泣けバ、房八ハ目を見開いて、「母様、嘆きハお道理ながら、余りくよ/\思ひ過ぎ、患うて等下るな、便り少なき母の身の上、此先憑むハ犬田殿、早此上ハ、我血潮を片時も早く犬塚様の御役に立〔て〕」ト覚悟の有様、小文吾「今ハ是迄」と房八が傷口へ、又彼貝を推当〔て〕濆る血を受入れつゝ、一間に伏したる犬塚の、口へ血潮を流込むにぞ、信乃ハ一声「苦」と叫びて、其侭息の絶るにぞ、小文吾も又妙真も「此ハ」とばかり驚く折しも、庭の小陰に立忍びて、様子伺ふ辛四郎が、障子蹴放し飛んで入り「お尋ね者〔の〕犬塚信乃、村長殿へ引いて行く」ト言ひつゝ信乃を引立つれバ、信乃ハ忽地息吹返し、襟髪取て投出せバ、投られながらも、辛四郎が猶組付かんと起上るを、起しも立ず犬塚〔が〕、膝に楚と押敷いたる此有様に、小文吾等ハ再び驚き、声振立て「思掛け無き其活躍。本復ありしか、犬塚氏」ト言はれて信乃ハ心付き
[次へ] 4ウ5オ
5ウ6オ
[つゞき]
「扨ハ血潮の奇特にて、死ぬべき命の忽地に助かりたるか。忝や。是も偏に山林が古主へ尽す忠義の真心、九ッの世を換るとも、此厚恩ハ忘るまじ。斯迄妙ある血潮の奇特、彼大八にも与へなバ、もし蘇生る事もやあらん。試み給へ、犬田氏」ト言ふに、小文吾点頭て、彼梭尾貝に残りたる血潮を、其侭大八が口を開きて注入るれバ、不思議や死したる大八が忽地すつくと立上り、生れて四才に成る迄も、握りし侭に開かざりし左リの拳を開くにぞ、内より一つの玉の出るを、辛四郎ハ佶と見て「其玉、俺が」ト言ひながら、信乃を振捨て大八に、飛で掛るを身を交はし、小手を捉へて捻挙ぐる。童に似気なき力量早業。「こりや敵はぬ」と、辛四郎が逃んとするを大八か、側にありあふ小文吾が脇差手早く拾取り、抜く手も見せず辛四郎が細首丁と討落せバ、此有様に小文吾等ハ驚愕つ、また歓喜つ。大八が拳の内より出でたる玉を熟々見るに、此にハ仁じんの一字あり。夫のみならず、父房八に最前蹴られし脇腹に、何時の程にか
[二の巻〓] 5ウ
[一のまきより]
痣の出来て、形容牡丹の花に似たるが、八ッ口の間より見ゆるに、人々感嘆したる。夫が中にも房八ハ、苦痛を忘れて声奮立て「扨ハ我子ハ蘇生り、殊に玉あり痣あれバ、誰か犬士(けんし)と言はざるべき。親にハ遙かに勝りたる。遖良き子を産みしよな」ト言はれてお沼藺ハ莞尓と笑ふを、此世の暇にて、果無く息ハ絶へにけり。折しも一間に声あつて「里見治部の大輔義実の家来、金碗(かなまり)大助孝徳入道ヽ大(ちゆだい)、同藩の武士(ぶし)蜑崎十一郎照文が見参せん」ト呼はりつゝ、障子をさつと推開れバ思掛け無き、山伏の彼念玉と観徳が、初めに変る此出立に「此ハ」と驚愕く其中にも、信乃小文吾ハ脇差を身に引付けて油断せず「様子如何に」と躊躇ふ程に、ヽ大ハ座中を佶と見回し「人々怪しむ事勿れ。我ハ年来、仁義(じんき)礼智(れいち)忠信(ちうしん)孝悌(かうてい)の八ッの文字顕れたる八ッの玉を訊ねんとて、六十余州を遍歴すれども、未だ一つの玉をも得ず。今年ハ東国に杖を曳て鎌倉迄来りしに、図らずも此処に居らるゝ蜑崎照文に邂逅ひ、子細を問バ、照文ハ「君の仰せを承はり、賢良(けんりやう)武勇(ぶゆう)の人を選み召抱へん為、国々を窃に繞る」と言ふ。時に「此なる行徳に、小文吾と言ふ若者ありて武勇勝れし者なるが、腰のあたりに一つの痣あり。其形容牡丹に
[つぎへつゞく] 6オ
6ウ7オ
[つゞき]
似たり」と風聞仄に聞えたり。其痣牡丹に似たる事、思ひ合する事もあれバ、暗に様子を探らん為、我ハ念玉と仮に名告、照文ハ又観徳と偽名付けて、当所に来り「山伏なり」と言ひ拵へて、共に此屋に逗留なし、始終の様子を窺ふところ、「一人小文吾のみならず、信乃、現八も大八も、又額藏とか言へる者も、各々其身に痣在りて、各々又其玉を持り」と察知つたる此身の喜び。抑主君里見殿、先年安西(あんざい)景連に城を囲れ給ひし時、城に兵糧乏しけれバ、味方難儀に及し折柄、戦術尽きて、我君八房と言ふ飼犬に「汝、敵将景連を喰殺して、多くの味方の生命を救ふものなら、我娘伏姫の婿にせん」との御戯言を、犬ハ信実と思ひけん。其夜景連が首級捕つて帰りたるより、彼犬ハ伏姫上に恋慕して、些時も
[次へ] 6ウ7オ
7ウ8オ
[つゞき]
姫の側辺を離〔れ〕ず、竟に冨山に伴はれて、長き月日を送り給へど、姫君賢女(けんぢよ)に在せバ更に御身を汚され給はず。然ども犬の気を受けて腹に御子を宿し給ふを、世に恥しく思召れ、自殺し給ふ。疵口より忽地白氣(はくき)立上りて、八ッの玉を巻上げたり。其時我ハ鉄炮にて彼八房を打留めしかども、姫上自殺し給ふを見て、共に追腹切らんとせしが、姫君の仰せ重けれバ、惜からぬ身を延命へて、彼飛失せし八ッの玉を、年来尋求めん為、諸国を遍歴し、当所に今日只今其玉の主に逢ふたる歓喜ハ、何〔に〕喩へん物も無し」ト言ひつゝ傍を見返れバ、照文も又小膝を進め「今此法師の言はるゝ如く、犬塚はじめ五犬士ハ共に里見に宿世あれバ、今より当家の臣たらん事、夫ハ勿論の事なるべし。我君安房(あは)を切随へ、一国無異に治れども、先年安房を逐電做したる山下定包、麻呂信時、窃に逆意を催して里見を討たんと謀る由。然るに安房ハ辺鄙なる故味方に左程智勇(ちゆう)の者無し。拠つて拙者に仰付けられ、普く賢(けん)を求むる折柄、図ずも御身等に邂逅ふたる歓喜ハ、百万騎の味方を得しにも増して、当家の僥倖ならん」ト言ふに、ヽ大ハ懐中より彼水晶の数珠を取出し「汝等、先づ良く此を見よ。忝くも此数珠ハ
[つぎへ] 7ウ8オ
8ウ9オ
[つゞき] 役行者の姫上に授け給ひし処にして、汝等が所持なす玉ハ皆此数珠の親玉なり。又身内なる牡丹の痣ハ彼八房が毛色にあやかる。此も遁れぬ因果なり」ト言ひつゝ差出す彼数珠を、信乃小文吾ハ佶と見て、儀容を改め、手を支へ「此身の素性を聞くのみか、又我々が身に就きし玉の因縁、痣の由来、承りし身の本懐、此にて思廻らせバ我々五人の其他に猶三犬士在らん事疑ふべくも候はず。今より諸国を馳巡り其三犬士を尋求め、里見の御家に御味方做し、山下麻呂をも討伐げん。御心安かれ御両所」ト言ふに、喜ぶヽ大照文、夫と聞くより房八も、苦しき息を付きあへず「ヲヽ勇ましき其一言。我にハ少しの痣も無く、玉も無けれど僥倖に、犬士の員数に入りたる大八。何卒彼が身の上を、宜敷憑み参らする」と言ふに、ヽ大点頭て「信乃が病を救はん為、我家に先祖より伝はる所の血潮の名法(めいほう)、夫とハ無しに小文吾に、最前話し聞せしかども、世にも得難き男女の血潮、如何にやすると思ひしに、汝夫婦が生命を落し、信乃を助けし義心(ぎしん)に拠て、忽地其子も蘇生り、犬士の員数に入りたるハ、信義を照す天の恵み。今よりしてハ大八が名を犬江親兵衛仁(まさし)と名告せ、親の名迄も顕彰せん」と言ふに、房八莞尓と笑ひ「其御言葉が未来へ土産。誘此上ハ犬田殿、我首討て親人の縄目を早く救はれよ」ト覚悟の躰に、小文吾が「苦痛を見せじ」ト立寄て、口に唱ふる称名ト共に閃く刄の下に、房八が首討落せバ、堪へかねつゝ妙真が、覚へず「曰」と泣沈む声と等しく表にも「苦」ト叫びて、苦しむ物音。「何事やらん」ト小文吾が門の戸開くれバ、現八が孟六均太を小脇に締付け、徐々として入来たり、二人リを傍に投出せバ、孟六均太ハ眼玉飛出で伏重なりて息絶へぬ。其時現八威儀を改め「拙者事ハ今朝早く破傷風の妙薬を求めん為に、芝浦迄遙々尋ねて参りし所、『其妙薬を製する人、今ハ彼地に居らず』と言ふに、力及ばず、すご/\と立帰りつゝ門迄来しに、内にハ人の嘆く声、「何事やらん」と打騒ぐ胸を鎮めて覗ふ程に、残らず漏聞〔く〕、此彼の御物語に、此身の上さへ、玉と痣との因縁さへ、初めて知つて疑惑の雲ハ
[つぎへ] 8ウ9オ
9ウ10オ
忽地晴たれバ、『此上ハ内に入り、各々方に見へん』と思ふ折柄、側なる壁を崩して這出す癖者、何かひそ/\囁合ひ、行んとするを引補へ、則ち此処に」と物語れバ、照文聞いて打点頭「其癖者を捕へずバ、此方の大事を訴へられ、事の難儀に成るべきを、捕へられしハ遖候手柄。此上ハ犬田氏御身ハ疾く其首級を村長方へ携行き、親御の縄目を救はれよ。我ハ法師と諸共に犬塚犬飼犬江を伴ひ、一先此場を立退ひて、麻呂山下を討滅す手立を繞らし、且ハ亦、彼額藏にも対面做し、猶此他なる三犬士の在処も、暗に訊ぬべし。御身も後より。合点か」ト言ふに、小文吾莞尓と笑ひ、「御気遣ひ做さるゝな。親の難儀を救出し、出口/\の固めを退け、やがて後より追付かん」と言ふに、大八立上り、壁に掛けたる弓推取り「婆様、吾ハ今日から武士。伯父様達と一緒に行く。婆様も後から御座んせや」ト勇立つたる孫の顔見る嬉さと、房八が首級に別るゝ悲しさに、亦伏沈む妙真が心を「然こそ」と察したるヽ大照文。信乃現八も
[つぎへ] 9ウ10オ
10ウ 奥目録
[つゞき] 共に目と目を見合せつゝ、「さらバ」とばかり立上れバ、早啼渡る群烏。夜ハほの%\とそ明にける。
○是より下の巻に続く
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藏版新刊珎奇雜書略目録
遊仙沓春雨艸紙 (十一編\十二編) 緑亭川柳作 一陽齋豊國画
田舎織糸線〓衣 (四編\五編) 仝作 同画
天〓太平記 (初ヨリ\追々出板) 仝作 一勇齋國芳画
奇特百歌仙 同断 仝案 一立齋廣重圖
畸人百人一首 全一冊 仝案 同畫
狂句五百題 全二冊 五代目 川柳著
東都書房 南傳馬町一丁目 蔦屋吉蔵板 」奥目録
五編下巻
見返 11オ
〔見返〕
「今様\八犬傳\第五編\下の巻」「春水作\国芳画」「とり女画」[蔦吉\山口版]
〔本文〕
[石濱の段]
「イヤナニ犬田小文吾殿、某事ハ籠山勘ヶ由左エ門(かげゆざへもん)頼連とて千葉家(ちばけ)譜代の武士なりしが、仔細在つて出国(しゆつこく)做し、久敷く浪人致せしところ、此屋の主人馬加(まくはり)大記(だいき)が推挙に拠て帰参整ひ、往古に返る此身の出世。承れバ其処許にも久敷く此屋に逗留ある由、何がな饗応し参らせんと思へど、大記(だいき )ハ主用繁く今日ハ拙者が主人に代り、不束ながら亭主役、誘粗酒ひとつ参せん」ト側に在りあふ盃を自ら取つて勧れバ、小文吾席を改めて「是ハ/\籠山氏、某不思議の事に拠り、当家に長々逗留のうち、日毎/\の御歓待、今日ハ取分け此御屋形を花街に見立し御趣向振。実に麗かな春の夕暮、花の盛りハ一刻千金、田舎育ちの某ハ目を驚し候」ト言ひつゝ四下を見回せバ、次に控へし四人の若者各々其処に進出で「我々事ハ大記が家来、今四天王(してんわう)と呼ばれたる渡辺綱平(つなへい)「坂田金平「卜部季六(すへろく)「碓井貞九郎(さだくらう)是に控へて罷り在り。誘犬田殿我々が
[つぎへ] 11オ
11ウ12オ
[つゞき]
御酌致すで御座りませう」ト言ふを頼連聞あへず「イヤ汝等が骨太な無骨な酌でハ酒ハ呑めぬ。其処を思つて今宵の催事、花街の女子も来て居る筈、疾く/\ 此処へ呼出しやれ」ト言ふに、綱平額を撫で「如何様、是ハ仰せの通り、頼連公(こう)にハ兼てより御執心の花紫(はなむらさき)ト言ふを、頼連見返りて「綱平何を申すのじや、小文吾殿〔の〕聞かるゝ前で、余りつか/\遠慮の 無い」ト言ふに、小文吾打笑みて「イヤ拙者への事ならバ、御斟酌ハ御無用/\。恋ハ思案の外とか言へバ、頼連殿にも、扨ハ其「如何にも知られし上からハ、包むに詮無き我が思ひ、今宵ハ是非共花紫を、口説き落して閨の花」ト言葉半ばへ向ふより「さァ/\皆さん御座んせ」ト仲居の阿石が先に立ち、廊下伝ひに花紫が新造禿引連れて、裲襠姿しどけなく、歩出でつゝ立留まり「浮世の春ハ押並べて、曲輪も変らぬ此眺め、思はぬ風に誘はれて、色香を運ぶ艶桜、手生けの花と手折れても水挙げかねし心の内、本に辛気な事じやな」ト言ふを此方に綱平季六「是ハ/\紫太夫、頼連侯の御待兼ね。さァ/\此方へ」ト 差し招けバ「ても忙しない。行くわいなァ。子供来やれ」ト言ひつゝも皆打連れて座に通れバ衣紋繕ひ頼連ハ四下を見回し「コレ阿石、此程よりして某が、色々手を変へ品を変へ、口説ても/\
[つぎへ] 11ウ12オ
12ウ14オ
[つゞき]
身に従はぬ花紫、それ故其方を憑み措いたが、返事が聞いて落着きたい。如何じや/\」ト問掛くれバ、阿石ハ莞尓手を支へ「さァ其事ハ、妾が良う呑込んで居りますれ」と、張の強ひが花廓の意気地、「ツイおいそれとも成りませぬ」「其処を落すが、仲居の働き」「急いて出来ぬが恋の道」「イヤ其言葉呑込めぬ。花廓の意気地ハ兎も角も、一旦武士が言出した言葉は、如何な後へハ引かぬ。刀に懸けて、只今、返事をさする。花紫、サァ返答ハ」ト言ひながら、佶と睨めバ、打笑ひ、「刀に懸けてと言はしやんすりや、妾を殺す御心か。命を落すが怖いとて、嫌な御客に肌触れてハ花紫が名の汚れ、御前の意地と妾の意気地、立て競べねバ是迄に大夫と言はれた甲斐が無い。斬るとも突くとも頼連さん。さァ如何なりと」ト覚期の有様。頼連今ハ堪り得ず、刀推取り立上り
[つぎへ] 12ウ14オ
14ウ13オ
[つゞき]
「ヲヽ良ひ覚期だ。此上ハ小文吾殿への歓待に、汝を此場で活作り。我包丁の手並を見よ」ト刄をひらりと抜放し、「只一討ち」と振上ぐるを、「アレまァ待て」ト新造仲居止むるを、突退け振払ひ、猶も「斬らん」と頼連が、振閃かす刄の稲妻。折しも彼方の一間より、走出で来る舞子の朝開野(あさけの)、二人が中へ割て入り「まァ/\待て下さりませ。訳も白刃の其中へ、飛んで入るハ何とやら、出過ぎた者と御叱りも、知つてハ居れど此侭に、見捨て措かれぬ此場の様子。乙に縺れて御座敷も、波風立てぬが舞子の役、憚り乍〔ら〕妾に、此場の事ハ此侭に、御預けなされて、頼連様、其御刀をも御怒りをも御収めなされて下さりませ」ト言ふを頼連聞敢へず「誰かと思へバ其方や朝開野。要らざる女の差出口。止立て為ずと、其処退きやれ」「イヱ滅多にハ退きますまい。凡そ殿御も姫御前も、恋に変りハ無いものを、此程からして妾が、心の実情打明けても、貴方ハ薄情い御返事計り。貴方が妾に薄情いも、此処に御座んす紫さんが、貴方に薄情く為しやんすも、心に変りハ御座んせぬ。恋の敵と知りながら、紫さんを庇ふのも、貴方へ尽す妾の真実。此場を預けて下さんすか。其も適はぬ事ならバ、紫さんより妾から先へ殺して下さんせ」ト、身を擦寄すれバ、頼連が
[つぎへ] 14ウ13オ
13ウ15オ
[つゞき]
「心に染まぬ朝開野か扱ひながら、此侭に惜ら盛りを見も果ず、散すハ惜しき花紫。然らバ其方が望みに任せ、些時の間預けて呉れう。とハ言へ、抜いた此白刃、血を見ぬ内に収めてハ、刃の手前、武士の一分「立〔た〕ぬとならバ朝開野が、貴方へ立てる小指の心中。是受取つて」ト言ひながら、頼連が刄にて指を切らんとするところを、背後に覗ふ小文吾が「待つた」ト声掛け立寄つて、刄をもぎ取り、我と我小指を発止と切落とせバ、不思議や俄頃に動揺して、風も有らぬに散掛る桜の梢を屹度睨まへ「はて心得ぬ。小文吾が今此白刃に血を彩せバ、忽地桜の落花(らくくわ)做すハ、伝へ聞〔き〕たる落葉丸(おちばまる)」ト言ふに「扨ハ」ト朝開野が寄らんとするを、頼連が手早く刃を受取つて「血を見し上ハ此白刃ハ拙者が慥に受取つた」ト鞘取上げて収れバ、忽地散止む桜の不思議。其時犬田ハ切捨てし指を取上げ「コレ朝開野、此小文吾が其方へ心中、是受取つて」ト差出せバ「妾へ御前が心中とハ」「ハテ知れた事。惚れたのじや。其方と妾ハ宿世より結んだ契の在るやらん。一目見しより恋風の身に染み%\と思込み、忘るゝ暇無き煩悩の、犬田が心を推量して、色良い返事を聞か
[つぎへ] 13ウ15オ
15ウ16オ
[つゞき]
せて呉れ。如何じや/\」ト手を取つて戯むれ掛るを朝開野が「悪い事を」ト言ひながら、其手を取つて拗返す力に驚く小文吾が「扨こそ違はぬ、慥に男」「ナニ男とハ」ト頼連が聞咎むれバ、小文吾が「イヤナニ男が此様に言葉を尽し、誓文に指迄切つたを徒にハ為まひ。其返答ハ何とじや」ト言はれて、朝開野莞尓と笑ひ頭髪に挿したる釵児を抜取りて差出し「御前に返事ハ此釵児」「すりや其品を某に」ト言ひつゝ取つて打眺め「こりや桃花(とうくわ)を彫りたる釵児。是を身共へ返事とハ」「さァ其花の釵児の謎が解けたら後方迄に」「互ひの胸をも下紐をも、とくと思案をして見やう」ト彼釵児を懐中へ入るれバ、此方に頼連が「扨ハ小文吾和殿にハ此朝開野を執心とな。心ハ同じ某も花紫の香に愛で〔て〕、所縁の色の忘られねど、急いて行かぬが恋の道。此上ハ、これ朝開野、其方が言葉に従ふて、些時の間、花紫ハ其方に預けて遣はす程に、口説き落して今宵の内に、屹度身共に取持ち致せ。犬田氏にハ別間にて薄茶の一服参せん。皆も一緒に斯うおじやれ」ト言ひつゝ立てバ、小文吾はじめ新造歌綾、仲居の阿石、綱平、金平、季六等も皆打連れて奥へ入る。跡見送りて花紫ハ進み寄りつゝ「朝開野さん、妾や御前に願ひが有るが、何と適へて下さんすか」ト言ふに、朝開野差し寄つて「然う言はしやんすりや、妾も又御前に一つの願ひが有る。其聞届けて下さんすか」「御前の事なら何なりと。縦命に替へてでも」「嬉しう御座んす、大夫さん。して又御前の願ひとハ」「恥かしながら、朝開野さん。情夫に成つて下さんせ」「夫なら女子の此妾に」「縦女子であらうとも、惚れまいものでも
[つぎへ] 15ウ16オ
16ウ17オ
[つゞき] 御座んせぬ。どふぞ願ひを適へて」ト言ふに、朝開野打案じて「女子が惚れるも、是も何かの約束事、嬉しう御座んす。此上ハ、心と心ハ変らぬ夫婦、とハ言ふものゝ女子同士、外に仕様ハ御座んせぬ。其程迄に妾の事を愛ほしがつて下さんす御前の心が真情なら、今から妾を頼連さんにどふぞ御前の取持で」「『逢はせて呉れい』と言はしやんすか。夫や嘘じや。偽りじや。真実御前の本心ハ彼頼連に近寄つて、落葉丸を取返へし、父さんや母さんの敵を討たん下心」ト言ふに驚く朝開野が「コレ声高し、人や聞く。匿み匿みし此身の大望。大事を知つた上からハ、不憫乍らも生けてハ措かれぬ。覚期し遣れ」ト言ひつゝも隠し持つたる懐剣をひらりと抜いて振上ぐる刄に恐れぬ花紫が、望む処と身を摺寄せ「さァ殺して」ト覚期の有様。「言ふにや及ぶ」ト懐剣を振閃かせど、弛まぬ紫「さァ/\斬つて殺して」ト首を差延べ目を閉ぢて聊つとも動かぬ丈夫の心魂。熟々と見て朝開野が「心底見へた」ト言ひながら刄を鞘に収むれバ「夫なら妾の願ひを適へ情夫に成つて下さんすか」ト寄添ふ紫、朝開野ハ四下を見廻し懐中より袱紗に包みし
[次へ] 16ウ17オ
17ウ18オ
[つゞき]
一巻(いちくはん)を取出しつゝ差寄つて「御前の心底見た上ハ此身の大望成就せバ、其時こそハ必ず夫婦、変はらぬ証拠ハ此一巻」ト言ふを紫受取つて、傍に存りあふ硯箱の筆を取上げ、彼一巻に何やらさら/\書認め、最前切つたる小文吾が指の血潮を塗らして「是見て給べ」ト差出すを朝開野取つて打眺め「犬田小文吾悌順血判」「其が妾の心の真情」「夫や御前にハ犬田氏の」「季の妹で御座りまする。此上ハ朝開野さん、今宵の内に、頼連が片時離さぬ落葉丸を、御前の手に入れ本望を」「夫なら彼に帯紐解ひて」「何の此身を任そうぞ、靡くと見せて靡かぬが、其処が勤めの手練手管」「とハ言ふものゝ邪知深い頼連なれバ滅多にハ」「其処を騙すが女子の口先。騙され易ひが恋の道」「夫なら首尾良く一振を」「命に懸けて妾が屹度。先づ夫迄ハ朝開野さん、奥の一間で人知れず」「手立の相談」「夫婦の固め。さァ御座んせ」ト手を取つて其侭二人ハ奥へ入る。折しも此方の物陰より、様子窺ひ立出るハ朝開野が衣装担ぎ、里七と言ふ一人の若者。四下見廻し独言「実に浮世ハ色々で、彼御大尽の頼連様が、金に倦して大夫さんを手に入れやうと為つしやるを、嫌つて側へも寄付かず、夫にハ引替へ朝開野さんが彼美しい顔付で、持掛ける据膳を嫌つて喰はぬ頼連様。夫さへあるに今聞けバ、大夫さんが朝開野さんに
[つぎへ] 17ウ18オ
18ウ19オ
[つゞき]
惚れたとやら何とやら。女が女と色事〔と〕ハ、吾等が国〔に〕ハ無い話。どふも合点が行かぬわい」ト一人手を組み思案最中、一間の内より庭伝ひに、そつと出来る新造歌綾(うたあや)、四下見廻し里七の側へ寄添ひ、恥しげに「モシ御懐しう御座りました」ト顔を背けて差俯けバ、里七驚愕飛退ひて「何方かと思ふたら、御前ハ慥か大夫さんに遣はるゝ新造さん。扨ハ春気で目が眩み、色男の門違ひか。然し女が女に惚れる世の中なれバ、若しひよつと御前が吾に惚れたのなら、吾ハ一生女ハ断物。此事ばかりハ了見して」ト言ふ顔熟々打見遣り「御匿みなさるハ道理乍ら、貴方ハ里見義成(よしなり)様」ト言ふを押止め、里七ハ四下見廻し声潜め「我本名を知つたるハ」「其御疑ひハ無理成らねど、妾ハ貴方と許嫁の」「夫や成氏(なりうぢ)の息女と聞し四阿(あづまや)殿にてありつるか」ト言ふ時、四下の木蔭より現れ出づる数多の女中。各々其処へ手を支へ「妾共ハ最初より四阿様の御腰元。御姫様にハ貴方様と御許嫁のありしより、嫁入の日を指折つて御待ちなされた甲斐も無く、貴方様にハ「安房を立退き御行方知れず」と世の風聞。縦何処の果迄も、御跡を慕い参らせん」と御姫様の御供して、滸我の御所を漸々と、忍出でしが女子の甲斐無さ、光棍に捕へられ、花街に売られて主従が、辛ひ勤めの其内も、四阿様にハ露程も、未だ御身を汚され給はず。神や仏に願事の、其甲斐在つて今此処で、御逢ひなさるも尽きせぬ御縁。嘸御嬉しう御座りませう」ト言ふに、里七驚きて「我跡追ふて御舘を出でしハ不了見。とハ言ふものゝ、女子の心ハ然も在らん。義成安房を立退ひて、斯る容姿に身を窶すも、敵の様子を探らん為。首尾良く逆徒を討平らげ、我本国へ立帰らバ
[つぎへ] 18ウ19オ
19ウ20オ
[つゞき]
其時目出度く迎取らん。時節を待たれよ、四阿殿」ト言はれて此方ハ打萎れ「思ひに想ふて今日此処で、御目に掛つた甲斐も無く、此侭本意無い御別れを」ト言ふを打聞く腰元達「夫や貴方のが御尤も。御許嫁の御夫婦仲、誰に遠慮が要るもので。幸ひ四下に人目も無し。此間に積もる御話を」ト言ひつゝ一間へ押入れて、御簾ばつたり繰降し「此処に居つてハ却つて御邪魔。粋を通して、なァ皆様。さァ御座んせ」ト腰元ハ皆々打連れ立つて行く。
[こゝのゑとき]
此方の座にハ小文吾が一人、思案の手をこまぬき「我故郷を出でしより、犬塚犬飼と言合せ、里見殿〔の〕御為に山下麻呂が虚実を窺ひ、又二つにハ我輩と同因果の犬士等が在処を訊ね求めん為に、我ハ武者修行と言立て〔て〕、些時此屋に逗留做すも、『当家の主人馬加(まくはり)大記まつた籠山頼連が、山下麻呂に一味して里見に仇做す事もやあらん』と彼等が様子を窺ふに、遊女舞子を呼集め、日毎に我を歓待す有様。何とも以〔て〕合点行かず。然るに舞子朝開野ハ女に似げなき立振舞。彼頼連を表面にハ恋慕へども、何とやら怨みを含む彼が面体。殊に落葉の一振に心を掛ける有様ハ、『兼ねて噂に聞及びし、粟飯原氏の忘形見、彼の犬坂にハ非ざるか』と思ふに、幸ひ花紫ハ阿縫が次の我姉妹。彼ハ今より三年先、並四郎(なみしらう)に誘拐され行方知れずなりつるが、不思議に此程巡逢い、様子を聞けば彼も亦、朝開野を男と知り、心に深く慕へる由。拠て姉妹〔と〕心を合はせ、恋に事寄せ試せしところ、最前我に贈りし釵児桃花(とうくわ)の模様の其下に
[つぎへ] 19ウ20オ
20ウ 奥目録 ○此より第六編にて、毛野が仇討を編果つると、直に犬村大角が赤岩の住処の段を、今様振に綴り出だせバ、弥々高覧を願ふと言ふ。目出度し/\/\/\/\/\。
(朝鮮)牛肉丸 一包百銅\
此薬ハ脾胃を補ひ腎精を増すを〓一とす。此外諸病に功あること御こゝろみ御試し可被下候
下谷さみせんぼり\對州屋敷 染嵜氏
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嘉永五壬子歳新鐫藏版目録
阪東太郎後世譚 (八編\九編) (西馬作\貞秀画)
岸柳四魔談
[つゞき]
『○分け入りし 枝折絶えたる 麓地に 流れも出でよ 谷川の桃』ト一首の和歌を彫付けしを、我に返事と言ひつるハ『枝折絶えたる奥の間より、今宵密に忍び来よ。心の真実を打明けん』と掛けたる謎か」ト釵児を又取出だし打眺め、猶も思案に暮れ居たる。
(倣像\水滸)侠名鑑 (初輯 二輯 三輯)(樂亭西馬稿案\〓持樓國輝画圖)
(勸善\懲惡)乗合噺 七編 八編 (柳下亭種員作\一陽齋豊國画)
江戸鹿子紫草紙 (二編 三編) (文亭梅彦作\香蝶樓豊国画)
小栗判官駿馬誉 (中本\一冊) (西馬編\芳虎画)
象頭山夛宮日記 (中本\一冊)(樂亭譯\國輝画)
爲朝弓勢録 仝 (同\同)
東都馬喰町二丁目西側(書物地本\繪草紙)問屋 山口屋藤兵衞
奥目録
後ろ表紙
第六編
表紙
表紙
今様八犬傳\
錦耕堂梓\
爲永春水作\
一勇齋國芳画
序・見返
見返・序
〔見返〕
今様八犬傳\六編上冊\為永春水作\一勇齋國芳画\(山藤\蔦吉)合梓\おとり画
〔序〕
[村松][福]
人間一生の苦樂ハ。一日の戯場の如し。と先哲も言れしが。作者の胸のこんたんハ。早晩二番目の中幕にて。今宵夜半の鐘を相圖に。是非とも。二冊の種本を。書て渡すか然もなくバ。奥へ踏込み居催促。身代の代作の。又生筆と死筆ハ。草稿が違ふなぞ。とそんな古手なせりふも听ぬ。返答どうじやと板元が。松王もどきて遣り掛るを。おつと承知と安請合。尓ども這方が間に合バ。他方へ對して義理立ず。せつなき者ハ作者の操。これが自由になる事なら。爰へ三冊かしこへ。五冊。拾書して三百冊も。一所に出来よと梅ヶ枝めかし。硯を鐘に擬へて。打てど敲けど趣向も出ず。途度の詰りの大切が。てんてこ舞にて打出し/\
嘉永六(癸丑)春新販 [子十]
口絵第一図
1ウ2オ
鴎尻並四郎 賊婦舩虫 馬加大記常武 畑上語路五郎成高
口絵第二図
2ウ3オ
花紫 毛野
3ウ4オ
[五へんのつゞき] 再説。犬田小文吾ハ彼小座敷に唯一人些時思案の其折しも、此家の主人馬加(まくはり)大記(だいき)茶碗片手に携へつゝ、徐々として出来たり「これハ/\犬田氏、今日た。某ハ管領扇谷(あふぎがやつ)定正公より火急の御召を蒙て、是より鎌倉へ赴く筈。夫等の事に取紛れ、甚だ失敬。御容赦/\。不束なる手前成れども、誘粗茶一つ参らせん」と差出す茶碗に、小文吾ハ恭しく手を支へ「扨ハ俄頃に鎌倉へ御出立との御ン事か、御心忙しき折ならんに、態々拙者へ御手づから御茶迄給はる主人の御懇志。小文吾洵に痛み入る。夫のみならず最前より籠山氏の歓待にて色々との御饗応。思はず酩酊御免あれ」ト言ふに、大記ハ打笑みて「夫ハ近頃忝い。今宵ハ倅鞍弥五(くらやご)が誕生日にて候へバ、籠山に申付け、幼けれども今様の一ツ曲を催す筈、猶緩々と寛ぎて又一ツ献を過されよ」ト言ふに、小文吾嬉しげに「田舎育ちの某にハ何よりの御歓待。必ず拝見仕らん。何ハ扨措き、御馳走の御茶。誘頂戴」ト言掛けて、茶碗を手に取り押戴き呑まんとしつゝ、良く見れバ茶碗の内ハ茶にあらで、色も名にあふ山吹の花を散らせし幾枚の小判に、小文吾心得兼て茶碗を其侭差置くを、大記ハ見つゝ打笑みて「犬田氏、何故に其許りなる僅かの茶を心にハ掛け給ふぞ。然らバ拙者が心底を打明けて物語らん事、可惜しき事乍ら、某が主人と憑む千葉介(ちばのすけ)自胤(よりたね)ハ、其生付き愚鈍にして、家を嗣ぐべき者ならず。拙者も原来千葉の一チ族、今自胤を押倒し、代つて取る共、誰か又当り難しと言ふ者在らんや。夫に就て其許に暗に談ずる子細あり。先良く是を見られよかし。此扇の絵ハ水に舩(ふね)。是を我身に比べ見るに [つぎへ] 3ウ4オ
4ウ5オ
[つゞき]
君ハ船なり臣(しん)ハ水なり。水良く船を浮ぶれども、又良く船を転覆す。某是迄、自胤を船と敬ひ浮べしかども、船鈍けれバ走り得ず。此侭にして朽果てん事、何とも以て残念なれバ、我自胤に詰腹切らせ、倅鞍弥五を取立て千葉の家を相続せしめ、管領扇ヶ谷を味方に憑み、先年安房(あは)にて討漏らされたる山下麻呂を語らひて、彼等が為に里見を滅ぼし、又成氏をも討平らげて、威を隣国に奮はんと思ふ心ハ存りながら、未だ智勇の軍師を得ず。然るに御身の武勇才覚いと憑しく思ふが故に、打明け憑む拙者が心底。力を添へて給はらバ、事成る上ハ御身も我も共に栄華を尽すべし。此事受引き給はんや」ト潜めき告るを、小文吾ハ熟々聞いて威儀を改め「何事かと存ぜしに、思ひ掛け無き密事の御憑み。原来、貴殿の御仰の通り『君ハ船なり。臣ハ水なり』然れども、船を浮べるハ此水の順にして、又転覆すハ逆なり。其順を捨て逆を採るハ、武士の為まじき処也。『君々たらずとも、臣以て臣たれ』とある教も既に候はずや。庶幾くハ迷惑を捨て、真実千葉家の忠臣と成られん事こそ有りたけれ」ト憚る色無く答へしかハ、大記ハ案に相違して、心の内に憤怒を含めど、然あらぬ躰にて打笑ひ「遖見上げた貴殿の心ン底。今申せしハ戯言にて、御身の心を惹き見しのみ、必ず他言為給ふな。最前も言ふ如く「鎌倉へとて急ぎの旅立。帰宅の上にて御ン目に掛らん。猶緩々と逗留あれ」と言捨て、奥へ立つて行く。跡見送りて小文吾が一人莞尓と打笑ひ「此程よりの大記が歓待、心得難しと思ひしに、我推量に違はずして、彼ハ謀反の陰謀あり。麻呂山下を語らひて里見の家を滅さんと、我を
[つぎへ] 4ウ5オ
5ウ6オ
[つゞき] 里見に所縁ある犬士と知らで迂闊と大事を明せし上からハ、最早遁れぬ彼等が運命。我偽計つて彼に味方し、手立の裏を掻んと思はざるにあらねども、世に大丈夫と言はれん者が、仮にも敵に与してハ人の誹謗も免れ難く、拠つてつれなく論破り、彼が言葉に従はねバ、大事を知つたる我なる故、生けて措かじと謀るなるべし。然もあらバあれ、何程の事をか做さん」と呟きつゝ、手を拱きて居る折しも、床に掛けたる掛物〔の〕背後の壁を、予てより切破りてや措きたりけん、頬被せし手拭に面を隠せし一人の癖者、手に一ト筋の槍を携へ抜足しつゝ彼穴より忍入りて、小文吾が油断を見澄まし、背後より物をも言はず突掛るを、槍の光に小文吾が目早くひらりと身を躱し「此ハ癖者」ト言ふ間も無く、隙もあらせず突掛る穂先を彼方此方遣り違はして
[二の巻へ] 5ウ
[一のまきより] 抜合はせたる刄の稲妻、些時もあらず、癖者〔の〕肩先発止と斬下げて怯む処を蹴倒しつゝ上し掛つて胸元を一ト太刀ぐさと刺通す弾に被りし手拭の取れしに初めて顕るゝ顔を熟々打眺め「コリヤ此、先年我姉妹を誘拐したる鴎尻の並四郎にハあらざるか」ト言ふ時、背後の暖簾より様子窺ふ一人リの女、隠し持つたる懐剣を小文吾目掛けて早速の手裏剣。此方ハ早くも夫と見て、側辺にあり合ふ掛花生を小盾に発止と受止むれバ、仕損じたりとや驚きけん。慌てふためき、彼女ハ面を見留むる暇も無く、早くも姿を隠しける。6オ
6ウ7オ
[こゝのゑとき]
「イヤ ナニ太夫花紫、此迄手を替へ品を替へ口説いても/\、薄情く斗せしものが、打つて変はりし其素振。夫なら信実此頼連に帯紐解いて打解けて「さァ今迄ハ花街の意気地立て通してハ見たなれど、余り貴方の御心が忝さに絆されて、つい靡く気に成りました。必ず見捨てて下さんすな」ト言ひつゝ寄添ふ花紫。頼連ハ猶疑ひの心解けねバ差寄つて「夫や最前迄、立て抜くと言た意気地も打捨てゝ、靡く心に成りしとか。イヤ夫りや嘘じや、偽りじや。誠心に従ふと言ふにハ、何ぞ証拠が在るか」「アレマア貴方も疑ひ深い。靡く証拠ハ如何なりと、妾の身体を貴方の随意に」「ヲヽ夫聞いて落着いた。後とも言はず、今此処で二世の契約を。コレ紫此方寄らぬか」ト手を取れバ「貴方も余り物堅い。其御脇差を妾が」ト言ひつゝ取らんと差出す手先、頼連ちやつと振払ひ、挿したる脇差抜取つて、傍に直して打笑ひ「此脇差ハ故有つて、女の手にハ触れさせぬ。邪魔なら取つて此処へ置く。此で良いか」ト寄添へバ、花紫ハ身を背け「本当に殿御の心程、水臭い物ハ無い。妾の心を色々と疑はしやんした其癖に、縦大事な御脇差でも「女の手にハ触れさせぬ。邪魔なら俺が取らう」とハ、何やら隔てが有る様で、未だ解けやらぬ貴方の御心。末の末迄、妾が身を任す殿御の御心に、曇り霞が有る様でハ、此行末が覚束ない。当座の花の戯れなら御免
[つぎへ] 6ウ7オ
7ウ8オ
[つゞき]
なされて下さりませ」トびんと拗れバ、頼連差寄り「此ハしたり。花紫、何で其方を隔てやう。夫程迄に此脇差が欲しくバ、其方に遣りもせう。然し今言ふ通り、此や是、身にも替へ難き大事の一ト腰なる故に、迂闊にハ手放されぬ。帯紐解いてしつぽりと抱かれて寝たら、其時に」「夫なら、一つ寝せぬ間ハ」「ハテマア何で有らうとも、俺が言葉に任せて措きやれ。僥倖此処に銚子杯、固めに一つ呑んでさしや。ドレ酌をしてとらせん」ト銚子推取り、疾く/\と理無く言はれて花紫ハ、側の杯手に取上げ出せバ、頼連差寄つて酒を注がんとする折しも、思掛けなき背後より「杯成らぬ」と声掛けて、奥より出づる朝開野が、二人の中へずつと立出で両手を延ばして杯と銚子を持ちし二人の手を確乎と捉へて押隔て「ても厚かましい、紫さん。頼連さんにハ御前より妾が先へ惚れて居る。夫に固めの杯とハ、思へバ良くも出来た義理。頼連様も聞へませぬ。女子の口から恥かしい言の限りを言はせて措いて、余りつれない御心根。せめて一ト夜の御情を」ト寄るを突退け、声荒〔ら〕げ「又しても執拗女。最前太夫を其方に預け、『口説落して身が恋を成就させよ』ト言付け措きしに、太夫の心の解けたるハ其方が手柄と思ひの外、却て邪魔做す不届者。誰か在る。朝開野を其桜木へ縛めよ」ト言葉の下より卜部季六「畏つた」ト言ひながら、一ト間の内より踊出で、甚も柔弱き朝開野を其侭捕つて引据ゑつゝ、腕を背後へ捻上げて傍に在りあふ釣瓶縄にてぐる/\巻に縛めつゝ、桜の幹に縛付くれバ、頼連ハ見て打笑ひ「夫で良し。夫で良し。生命も取るべき奴なれども、今宵ハ主人の御子息たる鞍弥五殿〔の〕誕生故、夫に免じて許して呉れる。太夫其方ハ身と一緒に奥の一ト間でしつぽりと「妾や、どうでも其一腰を」「ハテサテ其方も悪い了見。最前も言ふ通り、帯紐解けバ直ぐに
[つぎへ] 7ウ8オ
8ウ9オ
[つゞき] 遣る」「夫でハどうも妾の胸が」「落着ぬと言やるなら、然らバ此なる一ト腰を、季六、其方に預けて措かう。太夫が心打解けて、我思ひをバ晴しなバ、其方から太夫に渡して遣りやれ」ト言ひつゝ差出す脇差を、季六が受取つて「洵に太夫ハ僥倖者。頼連公の御心に従ひさへする時ハ、此大切な一ト腰を下さらうとの今の御言葉。まづ其迄ハ季六めが確乎と預かり奉る。然し乍ら頼連様、此朝開野ハ今様に出でねバ成らぬ大事の役目。此様に縛めてハ差当たつたる手支へに」ト言ふを、頼連聞敢へず「ハテ其とても大事無い。朝開野が代りにハ、花紫に某が舞の手振や何や彼や、つい口移しに教へて遣る。太夫と共に季六も奥へ来やれ」ト身を起こせバ「ても舌怠い」ト朝開野が寄らんとするを、隔つる季六。頼連ハ見て嘲笑ひ「ハテ良い様」ト言ひ捨て〔て〕、太夫が手を取り季六と共に奥へぞ入りにける。後見送りて朝開野が「彼恋知らずの頼連様、憎いハ太夫花紫。縦此身ハ縛められ、手足ハ自由に成らずとも、思込んだる女子の一チ念。彼奴おめ/\寝かそうか」ト縛られ乍ら身悶へして、彼方を屹度睨まへたる。斯る折しも背後より抜
[つぎへ] 8ウ9オ
9ウ10オ
[つゞき] 足しつゝ出来る武士。縛められし朝開野が側へ差寄り、顔打眺め「ハテ何時見ても/\美しい其面差。其に就けても頼連殿、此艶やかな愛嬌で持掛ける据膳を、喰はぬばかりか斯様に、縛つて措くとハ分らぬ心底。夫にハ引替へ身共ハ又、其方の笑窪にしみ%\と惚れたとこそ言へ、足駄を履いて首ッ丈。此程想ふ心中男、よもや憎うも思ふまい。頼連殿への面当に、身共に今から乗換へる心ハ無いか」ト寄添へバ、朝開野静かに見返りて「遂ぞ見慣れぬ御侍さん。貴方ハ一体何方の」「ハテ見慣れぬとハ実が無い。拙者ハ千葉の家隷にて畑上語路五郎(はたがみごろごらう)と呼ばるゝ者。此程よりして、馬加殿〔の〕屋敷へ度々参る毎に其方の舞の手振と言ひ、又顔容姿の美しさ。一ト目見た其時より、寝ても覚めても忘られず、何時ぞハ逢ふて心の丈を言はふ/\と思ひしに、此処で逢ふたハ尽きせぬ因縁。どうじや/\」と身を寄せて口説けハ、朝開野顔赤らめ「其程迄に妾の事を思ふて下さる御志、頼連さんへの面当に、いつそ貴方に身を任せ、此見よがしに為たけれど、夫でハ貴方の御身の上。頼連さんへ済みますまい。心底妾を信実に思ふて下さる御心なら、妾と一緒に此御舘を駆落してハ下さんせぬか。然う成る時ハ貴方と二人、誰に遠慮も無い夫婦」ト言はれてぞく/\語路五郎、喜びながら打点頭「夫ハ誠か信実か。其一チ言を聞く上ハ、人に語らぬ密事乍ら窃に告げん」ト四下を見廻し「抑々、当家の執権職馬加大記と呼ばるゝ者〔の〕、当初ハ卑賤き者成りしが、何時ぞや当家の老臣たる粟飯原首と言ふ者を『謀反在り』と言立て〔て〕、滸我(こが)へ使ひの途にして籠山頼連に申付け、彼粟飯原を討取せ、滸我へ持参の尺八さへ並四郎と言ふ癖者に奪取らせて、馬加が潜に隠し措きたるなり。此より大記ハ経上りて執権職と成しより、今ハ上無き活計歓楽、我も
[次へ] 9ウ10オ
10ウ 奥目録
[つゞき] 其時大記に与して、粟飯原が妻稲木(いなぎ)をはじめ、其独子の夢の助をも、首打落とせし手柄ハあれども、大記ハ我を重くも用ひず。『所詮当家に在りとても、成出づる日も在るまじ』と思ふが故に、過ぎし頃、大記が隠し措く処の嵐山と名付けたる彼尺八と諸共に、当家の重宝小笹(をざゝ)の一ト振、盗出だして此処に在り。此を都に持参做し、室町殿へ差上ぐれバ、此身の出世疑ひ無し」ト、我を忘れて、我と我悪事を語出しける。今語路五郎が問はず語に「扨ハ」と許り朝開野ハ、驚く胸を押鎮め、猶其後を聞かんとするにぞ、夫とも悟らぬ語路五郎ハ、弥々側へ寄添ひて「元来、件の尺八を大記が潜に隠し措くも、彼ハ謀反の兆候ありて、主人頼胤を押倒し家を奪はん目論在る故、我其事を知る故に、先へ廻つて、尺八と小笹丸の一ト振を盗して此処に持つて居れバ、今言ふ通り、此二品を室町殿へ差上げて、立身出世を做さんと思へバ、此より其方と諸共に、都を指して赴かん。早、日ハ暮れて丁度よひ目も幸ひ四下に人目も無し
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藏版新刊珎奇雜書略目録
遊仙沓春雨艸紙 (十一編\十二編) (緑亭川柳作\一陽齋豊國画)
田舎織糸線〓衣 (四編\五編) (仝作\同画)
天〓太平記 (初ヨリ\追々出板) (仝作\一勇齋國芳画)
奇特百歌仙 同断 (仝作\一立齋廣重画)
畸人百人一首 全一冊 (仝案\同畫)
狂句五百題 全二冊 五代目 川柳著
東都書房 馬喰町二丁目 錦耕堂蔵板 」奥目録
四編下巻
見返 11オ
「今様八犬傳\六編下の巻\為永さく\一勇齋ゑがく\紅英錦耕両梓」「おとり画」
[上の巻より]
此侭に早く」ト言ひながら、緊縛められたる朝開野が、縄を解かんとする折しも、此方に窺ふ卜部季六「語路五郎殿、先待たれよ。最前よりして物蔭で聞くとも知らず、旨い相談。此通りを主人大記へ注進すると言ふ処なれど、夫でハ物に角が立つ。此朝開野にハ貴殿より拙者が先へ惚れて居れバ、先某が一ト口説き口説くを其処にて見物あれ。控へ召され」ト睨付けて、此方を見返り目を細め、にこ/\ものにて「コレ朝開野
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11ウ12オ
[つゞき]
然りとてハ悪い了見。此語路五郎と言ふ男ハ、第一に酒好で、酒の上が極悪く、其上瘡(かさ)で骨絡み。斯様な男に肌触れたら、其美しい整然とした其方の鼻さへ落ちるも知れぬ。夫から見れバ此季六、何処に一つ是ぞと言ふ傷の無い男振。其のみ成らず、語路五郎が彼尺八と小笹の太刀を自慢らしうひけらかせバ、我とても又落葉丸の刀を此処に持つて居る。其方ハ何にも知るまいが、此落葉丸の一ト振ハ粟飯原氏の家の重宝。先年罪を蒙りて粟飯原一ッ家滅亡せし時、愛妾調布と言へる者、此落葉丸を携帯へて、何時の間にやら御館を駆落ち、其後仄に巷説を聞けバ、足柄山の近辺にて、首が胤を産落とし、暗に主人馬加殿を『仇敵なり』とて窺ふ由。然るに籠山頼連殿、先年首を討取りしより、些時浪人と姿を変へ、諸国を遍歴せられしに、近頃由井(ゆゐ)が浜辺にて彼調布が非人と成り、特に持病の起りしにや、菰を敷寝に苦しげ成る其為体を見付出し、騙寄つて刺殺し、落葉丸の一ト振を奪返して当家へ持参し、事の次第を述べしかバ、主人大記が取持にて、帰参整ひ、今にてハ往年に変はる籠山頼連。又此刀の奇特と言つぱ、抜けバ玉散る白刃の稲妻、血(ち)を彩せバ、忽地に落花(らくくわ)落葉(らくえう)做す故に、落葉丸とハ名付けしとぞ。太刀の因縁此通り。今此太刀を室町殿に差上ぐる其時ハ、立身出世ハ思ひの侭。此処ばかり日ハ照らぬものを、其方が『応』とさへ言へば、是から都へ手を取つて、連れて上つて夫婦に成る。最前其方を荒々しく此桜木へ縛めたハ、頼連殿〔の〕言付け故、怨みも有らふが堪忍しや。否か応か」ト差寄つて、口説くを語路五郎が押留め「此ハ如何に、季六殿。拙者が只今申したと同じ台詞で口説かれてハ、此方甚だ迷惑致す。兎にも角にも身共が先約なり。「朝開野」ト寄添へバ、「身共であらう」「イヤ拙者」ト、語路五郎と季六が互いに争ひ朝開野〔の〕右左リより取付いて挑むを、朝開野熟々聞果て、莞尓と笑ひ「モウ夫で良い/\。笛の因縁、太刀の由来、馬加、籠山、其方達迄の謀略の段々。聞いたる上ハ、早其方達に用ハ無い
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12ウ13オ
[つゞき] 其尺八と二人リの太刀諸共に、其方達の首を妾に渡して行きや」ト思ひ掛けなき朝開野が言葉に驚き、二人リの士「扨ハ汝ハ癖者よな。大事を聞かせし上からハ、とても生けてハ措かれぬ奴。其本名を疾く/\言へ。言はれずハ己一ト討ち」ト刀引抜き、語路五郎が右より掛るを朝開野が、其身ハ縛められ乍ら、肘を利して早速の当身、肋骨を突かれて語路五郎が「苦」と一ト声仰反るを、隙もあらせず季六が、共に刄を抜翳し「只一ト討ち」と振上げたる。其時遅し此時敏し、思掛けなき彼方より、誰とハ知らず撃出す手裏剣。狙ひ違はず季六が、喉へ発止と撃当てられ、些時も堪らず此も又、共に一ト声叫びつゝ、其侭息ハ絶へにけり。思はぬ助けに朝開野ハ、驚きつ又喜ひつ、此方を佶と見返れバ、見越の松を足代に塀を乗越へ、犬田小文吾徐々として立出てつゝ、今季六を討留めし彼手裏剣を抜取りて「『分入りし枝折絶へたる麓路に流れも出でよ谷川の桃』ト一ッ首の歌を彫付けて、我に与へし此釵児、謎の心が解けし故、枝折絶へたる奥の間より忍出でたる我出立、此季六をはじめとして、邪魔做す奴ハ我が討取る。御身ハ早く本望を」ト言ふに、朝開野緊縛の縄を振切り、打点頭「ヲヽ憑しや犬田氏。三品の宝手に入る上ハ、妾〔ハ〕奥へ紛入り、本意を遂げたる其上で互いの心打明けん。先其迄ハ小文吾さん」「其方ハ矢張り舞子の朝開野。人目に掛らぬ其間に此死骸〔を〕」ト季六が傍へ立寄り、落葉丸の太刀をもぎ取り、亡骸を
[つきへ] 12ウ13オ
13ウ14オ
[つゞき] 側の井戸へ投込む折しも、空死したる語路五郎が「様子ハ聞いた」ト起上り斬つて掛るを、朝開野が右と左リへ遣違はし、持つたる刃を奪取つて脇腹くさと刺通せバ、急所の深手に語路五郎ハ虚空を掴む七顛八倒。朝開野此方を見返りて「此奴も矢張り仇敵の片割、血祭良し」ト打笑めバ「遖手の内。此上ハ跡構はずと、疾く/\」ト勧むる小文吾。朝開野ハ「アイ合点」と言ひながら、返す刀に語路五郎が首級討落し、其侭に笛と太刀とを携帯へて、奥を目掛けて馳行きける。
○奥にハ籠山頼連か、今日今様の晴衣装。則ち曽我(そが)の真似びとて、其身ハ工藤祐経に出立ち、花紫ハ大磯の虎、又白拍子妻琴(つまこと)と呼ばるゝ者を神崎の江口(えぐち)の役と定めつゝ、其他二人リの小姓をバ一万丸と箱王丸の仮に姿と出立〔た〕せ、はや今様の伶楽もの、でになかほと思しき頃、白き被布に顔を隠し、廊下伝ひに駆出る朝開野、会釈も無しに頼連が、傍へすつくと立寄れバ、其ぞと見返る頼連ハ、刀片手に声振立て「顔ハ確乎と見へねども、其形振ハ慥に朝開野。汝ハ最前桜木に縛付けさせ措きつるに、縄抜け為たるのみ成らず、誰が許して此処へ出た。疾く/\此処を下らずバ目に物見せん」と言ひつゝも、睨付れバ朝開野が「誰も許しハ致しませねど、縄抜しつゝ此様な五郎丸の姿に出立ち此処迄来たも頼連さん、貴方の御側へ近寄つて、思ひの丈を言はん為」「ヤアあだ執拗い女が執念。鞍弥五殿〔の〕祝ひに免じ許して措けバ、付上り、斯る場所をも憚らず推参做したる無礼者。もう此上ハ堪忍ならぬ。其処へなほれ」ト言ひながら、刀片手に立掛れバ、朝開野騒かず進寄り、忽地声を奮立てて「愚鈍なり
[つぎへ] 13ウ14オ
14ウ15オ
[つゞき]
籠山頼連。汝大記と心を合せ、先年、杉戸(すぎと)の松原にて、粟飯原首胤度が滸我へ赴く道に待受け、首を討つて其場を立退き、松田由井が浜辺に於て、首が側妾調布が持病に悩む折を窺ひ、騙討に殺害做し、落葉丸の一ト振を盗取つたる大悪人。斯く言ふ我を誰とか思ふ。粟飯原首が遺胤、調布が腹に宿されて、足柄山の近辺なる犬坂村(いぬさかむら)にて生れし故、其村の名を氏と做したる犬坂毛野(いぬさかけの)胤智が、親の仇敵と十六年付狙ふたる馬加籠山。此迄女と姿を変へ、仮に汝を慕ひしも『嵐山の尺八と小笹落葉の二タ振を、首尾良く奪返せし上、本意を遂げん』と思ひし故、然るに季六語路五郎が、我〔に〕悪事を口走りしより、難なく三品を取返せバ、朝開野と言ふ偽名を、今ハ捨てたる犬坂胤智。父と母との仇敵、其と名告つて勝負せよ」ト被布を取つて投除くれバ、以前に変はりし身軽の出立。夫と見るより花紫も懐剣片手に差寄つて「妾も実ハ犬田が姉妹。犬坂殿と兼てより夫婦の契約を為し上ハ、舅の仇敵、頼連殿、さァ尋常に」ト詰掛くれバ、思掛けなき頼連ハ、驚き乍らも聊も騒がず「扨ハ汝二人の奴ハ、首に所縁の者なりとか。如何にも首調布を殺害做せしハ、斯言ふ頼連。及ばぬ事を仇敵呼ばはり。返討ちだぞ。覚悟せよ」ト 刃をすらりと引抜けバ「扨こそ仇敵逃さじ」ト毛野も刀を抜合せ、互ひに戦ふ一上一下。花紫も諸共に、毛野を助けて頼連に斬掛らんとする処を、傍に在りて最前より様子窺ふ妻琴が、隠し持つたる懐剣をすらりと引抜き、押隔て「紫太夫と呼ばれしハ、犬田が姉妹〔と〕聞くからハ、妾が為にハ仇敵の片割、舞子の妻琴ト名告りしハ、犬田を謀る謀事。実〔と〕ハ鴎尻の並四郎か妻舩虫ぞや。最前夫並四郎ハ大記さまに憑まれて大事を知つたる小文吾故、刺殺さんと為たりしに、却て犬田に斬伏せられ、其時妾も物陰より窺ひ寄つて撃つたる手裏剣。其さへ彼に受止められ、夫ハ其場でやみ/\最期。おのれ小文吾。夫の仇と思ふ折から其方の一チ言。犬田の姉妹〔と〕言ふのみか
[つぎへ] 14ウ15オ
15ウ16オ
[つゞき]
頼連様に仇做す女。先づ其方から討取つて、犬田も追ッ付け後から遣る。覚悟しやれ」ト斬掛れバ花紫ハ打驚き「扨ハ其方ハ過ぎし頃、妾を無体に誘拐し、花街へ沈めし並四郎が妻でありしか。珍らしや、怨みハ此方から沢山と在る。刄を受けよ」ト言ひつゝも女に似気なき二人が太刀筋。闘ひながら広庭へ斬り合ひ行く。此騒動に見物せし鞍弥五を始めとして、屋内の者共、狼狽へ騒ぎ「槍よ太刀よ」と犇めくのみ。
[四の巻へ] 15ウ
[三の巻より] 近寄る者もあらざれバ、毛野ハ「得たり」と踏込み/\、秘術を尽す太刀先に、流石の頼連あしらひ兼て、数多の手傷を蒙りしかバ、敵し難くや思ひけん「者共出合へ」ト言捨て〔て〕、逃出さんとする処を「卑怯し、返せ」と言ひつゝも、躍掛つて後袈裟にばらりずんと斬下げつゝ、返す刀に首級討ち落し、再び声を振立て〔て〕「粟飯原首が忘形見、犬坂毛野胤智が父と母との仇敵、籠山頼連を討取つたり。此家の主人大記をはじめ、我と思はむ奴原ハ出〔て〕勝負を決せよ」ト斬つたる首級を差上ぐれバ、此時迄も狼狽へ廻りし鞍弥五と馬加大記(だいき)常武が家来の其内にて、四天王と呼ばれたる綱平金平貞九郎、其他多くの家来共、各々得物を携へて推取囲むを見返へりつゝ、毛野ハ莞尓と打笑ひ「取るにも足らぬ蠅虫奴等、一ツ諸に掛れ」ト [つぎへ] 16オ
16ウ17オ
[つゞき]
呼ばはりて、両手に太刀を振閃し、近寄る敵を斬伏せ薙伏せ、飛鳥の如く駆廻るに、刀ハ名に負ふ小笹丸。又差添へハ落葉の一ト振。殊更毛野が必死を究めし日頃の手並、十倍して先に進みし鞍弥五も金平綱平貞九郎も、或ひハ肩先腰車と当るに任せし撫斬りに、死骸ハ忽地山を做し、血ハ又流れて泉と成る迄、いとも激しく戦ふ折しも、群がる敵を投退け突退け、広庭よりして出来る小文吾毛野に向ひて声高く「犬坂殿/\。当の仇敵の馬加大記ハ今方供の用意して、鎌倉へとて旅立ちたれバ、無益の戦闘ひ御無用/\。早く此場を斬抜けて、大記が往方を追駆け給へ。邪魔做す奴ハ某が、掴殺して後より行かん。早く/\」ト呼ばはるにぞ、毛野ハ此方を見返りて「ヲヽ良い処へ犬田殿。頼連を討取るからハ、今ハ馬加只一人、討漏してハ残念也。然らバ此場を斬抜けて、大記に追付きて討留めん。御ン身も早く裏手より」「ヲヽ合点」ト二犬士(にけんし)ハ互ひに点頭胸と胸、水門(すいもん)の戸を押上げて現れ出る。出る犬田小文吾刀を鞘に徐々と、行かんと為たる背後より「先づ待ち給へ、犬田氏」と留むる声に驚きて、彼方を急度見返れバ、見越の松を伝はりて、塀を乗越へ犬坂が、ひらりと此方へ降立ちて「なう犬田氏、小文吾殿、今宵ハ御身の助けにて、首尾良く仇敵頼連を討取るのみか、我父が、先年奪取られたる嵐山の尺八をも、小笹落葉の二振をも取返したる喜びハ、何〔に〕譬へん方も無し。此上ハ大記を討取り、父の怨みを返しなバ、兼ねて里見義成公より仰せを受けし我身の素性。何時ぞや夢に在々と、見しに違はず伏姫君の、御子に等しき者なれバ、里見の為に力を尽し、山下麻呂を滅さん。御身も同し犬士にて、玉と痣との在る事を、妹御の物語に承はりしのみならず、里見殿より渡れし連判帖に血判を、確かに受取り
[つぎの〓印へ] 16ウ17オ
17ウ18オ
18ウ19オ
[まへの〓印より]
措くからハ、其後に及ば〔ば〕犬田氏、互ひに助け助けられ」ト言ふに小文吾喜びて「思ふに違はぬ犬士の一人。聞けバ聞く程憑し。然らバ此より諸共に、大記が跡を追留めん」ト河原を指して馳行く折しも、後より付け
[つぎへ] 18ウ19オ
19ウ20オ
[つゞき]
来る追手の兵者「逃しハ遣らじ」ト言ひつゝも、毛野小文吾を取囲むを、二人ハ見つゝ事ともせず、刀も抜かず近付けて、捕つてハ投げる柔の秘術。隙を見合せ犬坂が、側に繋ぎし苫船へ、身を躍らせて飛乗るを、猶も遣らじ」ト追手の兵者、繋ぎし縄を引留れバ「ゑゝ面倒な」ト言ひ乍ら、船なる〓(かい)を振上げて、只一撃に兵者を川へざんぶり打込めバ、弾みに切るゝ艫綱と、共に此方の苫撥除けて、現はれ出る花紫が、毛野と顔を見合せて「御前ハ我妻犬坂さん」「ヲヽ紫か」ト言ふ内に、艫綱切れし船なれバ、潮に捕られて八九間、早川中へと流れ行くを、毛野ハ驚き、〓(ろ)を押立て「犬田を乗せん」と思ふにぞ、漕返さんと焦れども、名に聞こへたる早川の、殊に出水(でみづ)に水嵩増して、流石の毛野も為ん術なく、只其船を覆さじと思ふの他ハ無かりける。其と見るより小文吾ハ、共に乗らんと思へども、追手の者に囲まれて、乗遅れしかバ苛立ちて、組付く敵を右左リに、或ひハ投退け踏躙る。此勢ひに辟易して、皆散り%\に逃行くにそ、早此上ハ心安し」と、岸を離れて行く船の、跡追留めんと為る折から、側に茂みし稲叢の、影より窺ふ船虫が、赤合羽(あかがつは)にて姿を窶し
[次へ] 19ウ20オ
20ウ 奥目録
[つゞき]
笠に顔を隠しつゝ、ずつと立出で小文吾が、刀の鐺をしかと捕る。此時空ハ掻曇り、黒白も分かぬ暗闇なれバ、小文吾ハ「又最前の追手ならん」と思ふにぞ、捕られし鐺を振放し、行かんとするを、船虫が、探寄りつゝ懐剣を、抜手鋭く突掛くる。刃の光に身を躱し、佶と睨し互ひの身構。然れども暗き闇夜なれバ、物別れして小文吾ハ、河原に沿ひつゝ馳行くにぞ「夫の仇敵」と船虫が、合羽も笠も打捨てて、帯引結び此も亦、綾無き道を小文吾が跡を慕ふて追行きける。
○是より七編へ続く。目出度し/\/\
(朝\鮮)牛肉丸 一包百銅〓一脾胃を補なひ腎精を益す妙薬なれバ虚弱の人常に用ひて大に功あり相変らず御求可被下候。
下谷さみせんぼり\對〓屋敷 染嵜氏
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嘉永六癸丑歳新鐫藏版目録
阪東太郎後世譚 (八編\九編) (西馬作\貞秀画)
岸柳四魔談 (三編\四編) (同作\國輝画) (〓像\なぞらへ)