『浮雲』 書誌

高 木   元 

〈書誌〉とは、大雑把に定義してしまえば、書物の物質ものとしての表層をつぶさに観察した上で、その様態を精確に記述した情報のことである。ある一つの書物を特定する場合、書名・著者名・出版社・出版年・ISBNなどの情報が不可欠ではあるが、事態は想像以上に複雑である。それは、同タイトル同体裁で ISBN が同一であっても、一部分に修訂が加えられている異版が複数存在しているからである。具体的には、再刷された際に刊記に「二刷」「三刷」と明示されていたとしても、同一の「版」から刷られた物とは限らず、細かい訂正が象嵌によって施されていることが多いのである。「版」が違えば異版として扱えば良いが、同一の「刷」でも部分的な修訂に拠る相違が存在することがある。つまり、書物の外観や刊記に一瞥を加えただけでは同一の書物にしか見えない〈異本〉が、極めて広汎に出版され続けているのが実状なのである。

商品として書物が供給され続けてきた歴史的な経緯を考慮すれば、異本が多数発行されて流布し続けるという現象は、印刷術が一般化した江戸時代から現代に到るまで、印刷に拠って複製され続けてきた書物という商品にとっては宿命であり、書物が備えてしまった不可避な一属性なのである。とりわけ、売れ続けて長い時間に渉って多くの人々に読まれ続けた書物ほど、異本が無数に生産され続けたということになるのである。

したがって全国の図書館で保存スペースの関係から複本が廃棄され続けている昨今、重複本(複本・副本)という考え方自体を再検討する必要があると思われる。現実的には、一点の相違も無い完璧に同一の書物であることを確認してから廃棄することは不可能に近いし、書誌学的な見地からいえば、図書館が重複本を廃棄するなどというのは、書物の保存という任務を放棄するに等しい暴挙だといわざるを得ない。せめてデジタル・アーカイブしてから廃棄すれば良いと思われるのであるが、経済的にも仕事量からいっても困難なのであろう。

より専門的に書物というメディアを観察すれば、印刷する度にインクの配合バランスが微妙に異なるし、気候に拠っても表紙等の色相にも差異が生ずるものである。使用された紙の質なども製紙会社の相違などで全く同じ事は少ないのが一般的である。初刷から時間を経た増刷の場合には、印刷後に化粧裁ちされる書物の寸法が微妙に違うことが多い。まして改版された場合には、装訂デザイン、使用されている活字の種類や紙質、その紙面の組版レイアウトまた印刷技法などにも明確な相違点が見出されるのである。取り分け、本文が電子化された昨今では、フォントを変更することは容易であり、また出力するプリンタに拠っても異版が生産されることがある。此等の微細な相違を、現存本に則した調査に拠って明確化し記述した情報が〈書誌〉であり、これを記述するための知見や学問を〈書誌学〉と呼んでいる。

現在、国内で最も広く用いられている書誌データは、図書館情報学の成果の下に開発された国会図書館が製作している JAPAN/MARC (MARC21) である。unicode や xml に対応し、より汎用性を追求してはいるが、タイトルと版との相違を記述しているだけで、より精緻な記述を目指す学問としての書誌学とは、残念ながら究極的な目的が相違している。

さて、この書誌学が扱うのは、書物としての小説テキストがどのようにして作成され、如何なるシステムに拠って流通し、そして現在に到るまで享受され続けてきた物質ものであるかという問題を含んでいる。現存している原本に則して、流通や享受の問題をも実証的に検証して記述するための学問でもある。作者が書き、それを印刷し、製本するための技術的な問題や、その本を出版し流通させるための経済的な仕組み、さらには本そのものの名称や体裁、内容やその伝来、さらには分類整理の方法とその歴史、究極的には紙や筆墨の材料に関する調査研究にまで及ぶ学問領域は大変に広い。

日本文学や日本語学をはじめとする人文科学研究は、斯様な書誌学に拠る地道な基礎研究から得られた成果に拠って、初めて可能になるのである。何故ならば、正確な本文テキストを確定できなければ、文学的な読みも、語誌の用例としても使用に耐えないからである。さらに、書記史からいえば用字法や漢字字体や仮名遣いなども研究対象テキストとしては無視できないし、印刷史からいえば用いられている活字フオントや組版も等閑視できないはずである。

そもそも書物とは本文テキスト(文字列)だけが問題なのではなく、表紙の色や使われている材質、その装訂の意匠、手に取った時に感じる重みや感触、使用されている紙の質感や厚み、板面の字詰めや行間の空き、使われている活字の美しさ、インクの匂い、印圧に拠って生じた凹み等々、まさに五感を駆使してモノとして書物と対峙することなしに〈読書〉という行為は成立しないのである。

斯様な書物のモノとしての側面に関する調査研究を担う書誌学は、人文科学における基礎研究として不可欠であり、次世代に継承すべき重要な学問分野の一つなのである。従来は大学の日本文学を専攻する学科などで講座が開かれていたが、近年の人文系学部に対する謂われなき迫害に遭って、今や絶滅の危機に瀕している。司書課程科目においても JP-MARC に頼る前提があって、書誌学は必修科目として位置付けられてはいない上に、講義内容も甚だ不十分である。本稿は如上の危機意識を募らせて記したものであり、読者諸兄諸姉にあっては意とするところを汲んでいただければ幸甚である。

さて、『浮雲』という小説テキストも、単に文字列だけで成立しているわけではない。二葉亭四迷により手で書かれた原稿は、坪内逍遙の校閲に拠る助言に基づく推敲を経て完成原稿となり、金港堂編集者の手を経て装訂や組版などが指定されて活版印刷工場に渡り、文選工や植字工という職人達の手に拠って活字が組まれ、幾度かの校正を経て印刷製本されて書物となり、流通機構に載せられて、やっと人々が手にして読むことができたのであった▼1。 さらに、その書物自体も初版初刷本が一回出されただけで終わったわけではなく、再刷りされる際に紙や装訂が変更されることも少なくなかった。人気のある小説等は、新たに活字を組み直して再版が繰り返され、その度に新たな装訂を身に纏って世に出る。版権が譲られ出版社が移り、文庫版も出された。斯様にして、現代に到るまで実に多くの異なる版が出し続けられてきたのである。これら何度か出版されてきた諸版バージョンに関する書誌情報は、実は小説の享受史の問題としてきわめて重要な問題系なのである。

以下、初版から始めて現在に到るまで、実に複雑で多数の異版を生み続けた『浮雲』諸板の様相を辿りつつ、その書誌の概略を記述してみたい。固より完璧を目指したわけではないので、より精確で網羅的な諸本研究に関しては後攷を俟ちたい。


【初版】

〈新|編〉 浮雲』 第一篇

体裁 仮製本、四六判(18.7×12.7糎)、1冊。
表紙〈新|編〉 浮雲\第一篇\坪内雄蔵著\東京 金港堂梓」(包み表紙。赤色単辺枠内側に鶯茶飾枠。文字は薄い地紋に黒色刷)。枠下に右から横書「東京新橋總十郎町國文社印行」。
見返 白(文字情報なし)
遊紙 桃色、薄様、各一枚。
扉 〈新|編〉 浮雲\坪内雄蔵著\東京 金港堂梓」(薄松葉色飾枠内同色刷)、裏は白。
前付浮雲うきぐもはしがき\明治丁亥初夏 二葉亭四迷」(1〜2頁)、「浮雲第一篇序\第廿年夏 春の屋主人」(1〜3頁)、目録「新編 浮雲第一篇\目録」。合計8頁。
巻首〈新|編〉 浮雲 上篇\〈春のや主人|二葉亭四迷〉合作」
本文 第一回〜第六回
挿絵 見開き5葉。〔大蘇〕芳年筆。14・34・52・98・150頁の次に上質紙足付見開き(谷折裏白)で貼込む。挿絵中に短い説明文が入る。
尾題「新編浮雲第一編(165頁)
刊記「明治二十年四月九日版權免許\同六月出版\著者 東京府平民坪内雄藏\東京本郷區眞砂町 十八番地\出版人 東京府士族原亮三郎\ 東京日本橋區本町三丁目 拾七番地\大賣捌所 大坂心齋橋北久寳寺町四丁目\金港堂原亮三郎支店\賣捌所 〈岐阜|仙臺〉金港堂支店\各府縣下代理大賣捌所」朱印 [原價金五十五銭][〈金港|書屋〉](裏白、1頁)
遊紙 桃色、1枚
広告諸新聞雜誌批評 〈政事|小説〉花間鴬」〜「改進新聞」(15頁)
組版 二葉亭四迷「浮雲はしがき」は東京国文社楷書四号活字、23字詰×9行、字間ベタ、総ルビ。春の屋主人「浮雲第一篇序」は弘道軒清朝四号と東京国文社五号仮名との組み合わせ▼2、30字詰×11行、字間ベタ。目録・本文は東京国文社四号明朝活字、23字詰×11行、字間二分アキ、総ルビ。広告は東京国文社五号明朝活字、36字詰×23行、ベタ組み。
後表紙 単辺枠の中央に赤色でRHを組合せた飾文字▼3
諸本 《初版》国立国会図書館(特52-703)、日本近代文学館(I5/7402/2)、日本近代文学館(S7/1290/1/1) 、高知市民図書館近森文庫(2134)、新潟県立図書館(344/103)
《異装》日本近代文学館(E/フタ/25-1)、日本近代文学館 (I5/7402/1)、国文学研究資料館 (ヒ4/816)は、所謂ボール表紙 (丸背クロース)本で、装訂以外は刊記を含めて初版本と同版▼4
《異版》日本近代文学館(Y3/3/285)は、初刷本と同じ装訂ではあるが、新たに五号活字を用いて組み直した30字詰×12行組、122頁。表紙枠下の「東京新橋總十郎町國文社印行」がない。扉は第二編に合わせて下部に「第一篇」と入る。挿絵も同版であるが組版が変わったので、10・24・38・72・110頁の次に上質紙足付見開きで貼込む。また、刊記も同一であるが、実際は第二篇の発行後に出されたもので▼5、書誌学的には再版・・と称すべき版である(圏点は筆者、以下同断)
《復刻》新編浮雲』新選 名著復刻全集 近代文学館、1973、日本近代文学館)
備考 再版・・(=異版本)に就いては、「朝野新聞」(明治21年8月3日)に次の広告が存する。「〈春の屋主人|二葉亭四迷〉合著\浮雲上編\定価金五十五錢\郵税金十四錢\右は久しく品切れに相成居り候処今般再版・・出来に付精々廉価に発売仕候間最寄書林又は絵草紙屋等にて御購求願上候也\東京本町三丁目 金港堂」(リプリント日本近代文学26『新編 浮雲 再版』所収の谷川恵一「解題」所引)。また「東京日日新聞」明治21年8月4日に広告「春の屋主人、二葉亭四迷合著 新編\浮雲 再版・・ 定価金五十五銭 上編 郵税金十四銭 右ハ久シク品切レニ相成リ候処今般再版・・出求候ニ付精々廉価ニ発売仕候間最寄書林又ハ絵草紙屋ニテ御購願上候\東京本町三丁目 金港堂」。同新聞の明治21年9月27日に載る広告「金港堂\稗史小説御披露」の中に「春の屋主人、二葉亭四迷合作 新編/浮雲 上編定価五十五銭 中編定価五十銭」とある(国文学研究資料館「明治期出版広告データベース」に拠る)

『〈新|編〉 浮雲』第二篇
体裁 仮製本、四六判(18.7×12.7糎)、1冊。
表紙 「〈新|編〉浮雲\第二篇\坪内雄蔵著\東京金港堂梓」(包み表紙。第一篇と同意匠。ただし枠下に「東京新橋總十郎町國文社印行」はなし)
見返 白(文字情報なし)
遊紙 桃色、薄様、各1枚
扉  「〈新|編〉浮雲\坪内雄蔵著\ 東京金港堂梓\第二篇」(飾枠は第一篇とは異なる意匠。灰色刷)
前付 目次「 〈新|編〉浮雲二篇目次」。一頁(裏白)
巻首「〈新|編〉浮雲二篇\〈春のや主人|二葉亭四迷〉合著」
本文 第七回〜第十二回
挿絵 見開き4葉。〔尾形〕月耕筆。14・58・90・144頁の次に上質紙足付見開き(谷折裏白)で貼込む。頁付なし。挿絵中に短い説明文が入る。
尾題「〈新|編〉浮雲二編 (150頁)
遊紙 なし
刊記「明治二十年十二月二十日版權免許\同廿一年二月出版\著者 東京府平民坪内雄藏\本郷區眞砂町二十五番地\著者 東京府士族 長谷川辰之助\神田區中猿樂町九番地\出版人 東京府士族 原亮三郎\日本橋區本町三丁目十七番地\大賣捌所 大坂北久寳寺町四丁目\金港堂原亮三郎支店\賣捌所 〈岐阜|仙臺〉金港堂支店\各府縣下代理大賣捌所」朱印(原價金五拾銭)〈金港|書屋〉(1頁) 広告 なし
組版 本文は 東京国文社明朝五号活字、30字詰×12行、字間4分アキ、総ルビ。
後表紙 単辺枠の中央に赤色でRHを組合せた飾文字(第一篇と同意匠)
諸本 《初版》 国立国会図書館(特52-703)、日本近代文学館(Y3/3/286)、同 (E/フタ/25-2) 、同(I5/7402/2)、新潟県立図書館(344/103)、国文学研究資料館 (ヒ4/816)。第二編の異装本や異版は管見に入っていない。
《復刻》新編 浮雲』新選 名著復刻全集 近代文学館、1973年、日本近代文学館)
備考 「東京日日新聞」明治21年2月21日に広告が載り「●浮雲第二編(本町金港堂出版)春の屋朧、二葉亭四迷両氏の合著にて当世向の人情小説なることは既に初編出版の節評判せしが此篇また旧来の為永流を脱□し倦まで流行を穿ち現今男女の情感を尽して其妙を極めたり」(国文学研究資料館「明治期出版広告データベース」に拠る)とある。

『〈新|編〉浮雲』第三篇 (掲載された「都の花」18〜21号の書誌を記す)
体裁 仮製本、菊判(21.5×14.8糎)、各号一冊
表紙「みやこのはな\東京 金港堂發兌\第拾八(〜廿一)號」(包み表紙)
見返 目録、刊記「都の花第四巻第十八號\明治二十二年七月七日發行」「都の花第四巻第十九號\明治二十二年七月廿一日發行」「都の花第四巻第二十號\明治二十二年八月四日發行」「都の花第五巻第二十一號\明治二十二年八月四日發行」。「都の花\毎月二回\第一及第三日曜日\發行」「〈發行人|編輯人〉 中根 淑\印刷人 山田武太郎\發賣所 東京日本橋區本町\三丁目拾七番地 金港堂\大賣捌 大阪東區北久寶寺町\四丁目拾二番地 同支店」。
前付浮雲うきくもだいぺんおよだいへん趣意しゆい 摘要てきえう内海うつみ文三ぶんざうといふをとこちひさいときから縁戚つヾきあひいへやしなハれてると、そのいへ下宿屋げしゆくや阿勢おせいといふ活發くわつぱつむすめッて、これもちひさいときから文三ぶんざう一途いツしよそだッてかれこれむつましくなッてたが、しかしこのむすめものうつりやすい氣質きしつであッた ――文三ぶんざうはつまらぬ官吏くわんりッてたが不圖ふと免職めんしよくになるとおほきに阿勢おせい母親はヽおや阿政おまさ口汚くちきたな小言こヾとハれた ――ところ文三ぶんざう同僚どうれうでちと阿諛あゆのやうな氣質きしつをのこ本田昇ほんだのぼるといふものもあそびに阿政おまさ母子おやこにちやほやハれ、三にんそろツて團子だんござかきくにさへッた…本田ほんだ阿勢おせい見込みこんでハた ――が、どうもらなかッた ――これらのてい文三ぶんざう口惜くやしがッたが、内氣うちきゆゑなんともへない なにふと反對はんたい本田ほんだ嘲弄てうろうされるので、如何いかにも胸苦むなくるしくてむなぐるしくてならない あるひ阿勢おせいわれうとむのかともうたがッて一寸ちよつと言葉ことばまじへると、つひひになッた。」
浮雲うきぐも 第三篇\二葉亭四迷\浮雲うきくも第三篇だいさんぺん都合つがふッてこの雜誌ざつしせることにしました。\この小説せうせつハつまらぬことたねつくッたものゆゑ、人物じんぶつ事實じヾつみなつまらぬもののみでせうが、それは作者さくしや承知しようちことです。\只々たヾ作者さくしやにハつまらぬことにハつまらぬといふ面白味おもしろみるやうにおもはれたからそれでふでッてみたばかりです。」
本文 「浮雲」十三回〜十五回(十八号、十三〜二十七頁)、十六〜十七回(十九号、九〜十七頁)、十八回(二十号、二十四〜三十二頁)、十九回(二十一号、二十六〜三十六頁)
挿絵 十三回(百八十頁の次)に上質紙足付見開一葉(芳年画)。頁付なし。説明文なし。
末尾 「(終)」
広告 二十号後表紙に『浮雲』の全面広告が載る。中央に「春の屋主人二葉亭四迷合著\浮雲\定價第一篇金五拾五錢第二篇金五拾錢\郵税各金拾二錢宛であります」。その周囲に「右ハ両氏が一機軸を出して專ら言文を一途にせん本願にて極て通俗なる言辭を選びまるで平生の談話の如くに人情世態を述られたる者なり但し談話の體ハ力めて中等社會の體を用ひられたれば所謂はなし家の談話と異ならず若夫趣工の妙と情致の周密ハ例の春のや二葉亭兩氏の手に成りたれば之を説かざるも知る人は知るべし只だ其文の靈妙なるを爰に廣告して愛翫を希望す文章の改良を重んずるの士并東洋將來に於ての必ず行はるヽ文章の體は果して如何ならんと思ふ人ハ此小説を一讀して大に悟る所あるべきなり\東京本町三丁目十七番地\金港堂」とある。
組版 築地五号活字ベタ組。22字詰16行、2段組。
諸本 《初版》 日本近代文学館(R/05/109)。東京大学総合図書館(ZE75/4-5)、国立国会図書館 (雑8/9)。この『浮雲』部だけを抜き出して合冊製本した本が存する由だが、恐らくは読者の手遊びであり、公刊された物とは考えにくい(未見)《複製》 『都の花』(不二出版、1984〜5)、別冊(解題・総目次・索引)共。
備考 後表紙下端に右から横書で「築地活版製造所印刷部印刷」(十八・十九号)、「(東京築地活版製造所印刷)」(二十・二十一号)とある。

『〈新|編〉浮雲』合冊
体裁 仮製本、四六判(18.5×12.6糎)、1冊
表紙 「〈再|版〉」「〈新|篇〉浮雲 〈春の屋主人|二葉亭四迷〉著 完」(包み表紙)
 「〈春の屋主人|二葉亭四迷〉合著\〈新|編〉浮雲 \東京金港堂」
前付 目録なし。「浮雲うきぐもはしがき\明治丁亥初夏 二葉亭四迷」(1〜2頁)、「浮雲第一篇序\第廿年夏 春の屋主人」(1〜3頁、4頁は白)
巻首 「〈新|編〉浮雲一篇 〈春の屋主人|二葉亭四迷〉合作」(1〜122頁)、「〈新|編〉浮雲二篇 〈春の屋主人|二葉亭四迷〉合著」(1〜150頁)、「〈新|編〉浮雲三篇 二葉亭四迷著」(1〜84頁)
本文 第一回〜第六回、第七回〜第十二回、十三回〜十五回。
挿絵 第一編は初版の五葉のうち、第三回の挿絵第三図 (「アラ月が‥‥‥まるで竹の中から出るやうですよ一寸御覧なさいな」)を削除し、8・56・72・104頁の次に、第二編は初版の4葉を、16・58・96・144頁の次に、三篇の挿絵一葉(芳年筆、説明文なし)は8頁の次に、それぞれ上質紙足付見開き(谷折裏白)で貼込む。頁付なし。
尾題 「新編浮雲第一編 」「〈新|編〉浮雲二編 」「浮雲第三篇
刊記 「明治廿四年九月二 日印刷\同 年九月十四日出版」[〈版權|所有〉](浮雲完) [定價金三十五錢] 「發行者 東京市日本橋區本町三丁目十七番地\原亮三郎」 「印刷者 同\日置九郎」「發兌 同\金港堂本店」 「大賣捌 大坂市東區南本町四丁目二百廿壹番地\金港堂支店・宮城縣下仙臺市國分町五丁目\金港堂支店」
広告 2頁(「年中惣菜の仕方 各新聞の評」「靜觀堂藏版書目」)
組版浮雲うきぐもはしがき」四号活字ベタ組。25字詰×9行。「浮雲第一篇序」五号活字ベタ組。29字詰×11行。「〈新|編〉浮雲一篇」五号活字ベタ組。30字詰×12行。「〈新|編〉浮雲二篇」五号活字ベタ組。30字詰×12行組。「〈新|編〉浮雲三篇」五号活字ベタ組。30字詰×12行組。
諸本 第一編を組み直した三版・・と、第二編を組み直し一部修正した第二版、『都の花』を組み直した第三編の再版・・という各編各版を集め、料紙も異なるものが合冊されたもの。日本近代文学館(Y3/3/287)、国文学研究資料館(ヒ4-865)、谷川惠一氏蔵本、清水茂氏蔵の一本(糶市本)
《異版》清水茂氏の前掲論文▼4に拠れば、第一編再版・・の誤植を訂した修訂版 (明らかな誤植であった「来出でき」 「こ〓(ことの合字)」 「渾召あだな」を「出来でき」 「こと」 「渾名あだな」と修正した版=論文中の合本再版3) を合冊した一本を所蔵されている由(未見)。あるいは、第一編再版を刷った際の残部を用いて合冊本を作成したものであろうか。
《版権登録本》国立国会図書館(特52-703)。第一、二編は初版の形態を保持しているが、第三編は、この合冊本の表紙(上部の「再」 「版」と「春の屋主人」を貼紙で隠し、「完」に貼紙して「三」とする)を合冊版の三編の本文(1〜84頁)に付し、合冊本の刊記 (出版の日付「十四」を「廿四」、定価の「三十五」銭を「七」銭と貼紙して直し、下の「(浮雲完)」を貼紙で隠す) を付して後表紙を付けたもの。刊記には「版權登録」の印が捺されている。この形態で公刊されたものではない。
《複製》リプリント版日本近代文学26『新編 浮雲 再版』(2005、国文学研究資料館)。遠藤好英氏蔵本(原表紙欠)画像データ▼6備考 「国民新聞」(明治二十四年九月二十七日)にこの合冊本の広告が載る。「〈坪内逍遙|長谷川四迷〉著\新篇 浮雲 再版\全一冊 紙数三百六十二頁挿画九葉 定価三十五銭\始ありて終りなき如くして終る、乞ふ疑ふべからず、それが浮雲、太虚又太虚、空中楼閣を描き出す、況んや浮雲に於てをや、\発兌 東京市本町三丁目 金港堂支店\売捌 大阪市本町四丁目\仙台国分町五丁目 金港堂支店」。(リプリント日本近代文学26『新編 浮雲 再版』所収の谷川恵一「解題」所引)

以上見てきたように『浮雲』は、実に複雑な諸版が混在して流布してきた。特に、所謂「初版」といわれてきた本に、活字を変えて組み直した異版が存在した。装訂や刊記に記載されている文字情報が同じ事から双方ともに「初版」と呼ばれてきたが、異版の方は「二版(再版)」と呼ぶべきであろう。となると、従来の「再版」は正確には「三版」ということになる。

斯様な初出の問題はテキストの成立事情に関わる重大な問題ではあるが、文字テキストの異同だけが問題なのではない。『浮雲』第一編から第三編が刊行されていた四年間は、活版の揺籃期であるが故に、各版の紙面に見られる字面じづらから受ける印象の相違は大きい。東京国文社の活字から築地活版への変化も注視すべきであるし、段落冒頭の一字下げがない点、変体仮名の意匠を備えた仮名活字が用いられている点、約物(文字以外の記号類) 特に "白ゴマ点" や "」" などの使用法や字間のアキ等々、組版方式の揺れにも注目すべきであろう▼7

言文一致の嚆矢といわれているにも係わらず、字法に関する研究は做されてきたが▼8、組版や書記法に関する研究はほとんど見受けられない。

さて、二葉亭の生存中である明治30年には、もう一種の『浮雲』が刊行されている。「〈博文館創業十周年|記念臨時増刊〉太陽」第三巻第拾貳號(明治三十年六月十五日發行、博文館)で、坪内逍遙『当世書生気質』など共に〈長谷川四迷〉著『浮雲』も所収されている(208〜332頁)。菊判の700頁近い大冊であるが、秀英五号活字ベタ組、24字詰×21行の2段組の紙面から受ける印象は、単行本とも大きく異なっていた。勿論、異版であるから表記にも小異が存する。

その後も『浮雲』テキストは幾度となく印刷発行されてきたが、その様相は享受史として見過ごしがたい。以下、概略的にではあるが時系列を追って見てみよう。『浮雲』本文テキストを中心に、抄出や外国語訳や注釈などを含め、論文等に就いては除外した。

明治43・5 『二葉亭全集』第1巻、朝日新聞発行所(博文館発売、『浮雲』『其面影』『平凡』、「略年譜」)
大正7・8/5 『二葉亭全集』第1巻、東京朝日新聞社(縮刷)
昭和12・12/15 『二葉亭四迷全集』第1巻、岩波書店
昭和16・3/24 『浮雲』岩波文庫(中村光夫「解説」)
昭和17・6 三代名作全集『二葉亭四迷集』河出書房(『浮雲』『片戀(ツルゲーネフ)』『肖像畫(ゴーゴリ)』『平凡』)
昭和22 『平凡・浮雲』春陽選書
昭和23 『青春群像』真善美社(小原元編) (二葉亭四迷『浮雲』(滝崎安之助)、北村透谷『厭世詩家と女性』(小田切秀雄)、島崎藤村『春』(小原元)、与謝野晶子『乱れ髪』、有島武郎『或る女』(瀬沼茂樹) 、斎藤茂吉『赤光』(ナカニシ・ヒロシ)、宮本百合子『伸子』(藤川徹至)、中野重治『歌のわかれ』(水野明善)、石坂洋次郎『若い人』(キクチ・ショーイチ)
昭和23・5 日本文學選30『浮雲』光文社(中村光夫解説) 昭和24 春陽堂文庫42『浮雲(新修版)』春陽堂
昭和25 ダイジェスト・シリーズ10『近代の苦悶 四迷の人と作品』ジープ社 昭和25・12 日本文学選30『浮雲 再版』光文社
昭和26 現代日本小説大系1『写実主義時代』第一、河出書房(日本近代文学研究会編)
昭和26・2/15 『浮雲』新潮文庫
昭和27 現代文豪名作全集11『二葉亭四迷集』河出書房
昭和28・9/25 『二葉亭四迷全集』第1巻 (創作・翻訳1)岩波書店
昭和28 近代文庫88・89『二葉亭四迷作品集』一・二、創芸社
昭和28・3 『二葉亭四迷作品集』第1巻、創元社(『浮雲』『其面影』)
昭和30 山田清三郎『日本文学名作の読み方』三一新書
昭和31 『現代日本小説大系』2(写実主義2)河出書房(日本近代文学研究会編) 昭和31・8 現代日本文學全集1『坪内逍遥・二葉亭四迷集』筑摩書房(坪内逍遙『桐一葉(讀本體)』『細君』『小説神髄』『史劇に就きての疑ひ』『藝術上に於ける寫實の位置』『沙翁劇の新演出』、二葉亭四迷『浮雲』『其面影』『平凡』『あひゞき』『めぐりあひ』『狂人日記』『小説總論』『未亡人と人道問題』『私は懷疑派だ』『予が半生の懺悔』『露都雜記』)
昭和32 『日本国民文学全集』19(明治名作集1)河出書房新社
昭和33・12 『浮雲』角川文庫
昭和37・1 外国文学名著叢書『二叶亭四迷小説集』人民文学出版社(『浮云』『面影』『平凡』、鞏長金・石堅白、中国語訳)
昭和37・7 日本文学全集14『二葉亭四迷・樋口一葉・徳富蘆花集』河出書房新社(二葉亭四迷『浮雲』『片恋(ツルゲネーフ)』、樋口一葉『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』、徳富蘆花『不如帰』)
昭和37・8 日本現代文學全4『坪内逍遙集・二葉亭四迷集』講談社(坪内逍遥『細君』『桐一葉』『新曲浦島』『役の行者』『小説神髄』『小説三派』『『マクベス評釋』の緒言』、二葉亭四迷『浮雲』『其面影』『あひゞき』『めぐりあひ』『四日間』『椋のミハイロ』『小説總論』『余が言文一致の由来』『余が翻譯の標準』『エスペラントの話』『未亡人と人道問題』『眼前口頭』『予が半生の懺悔』『露國文學の日本文學に及ぼしたる影響』。「年譜」「参考文献」)
昭和39・9/26 『二葉亭四迷全集』第1巻、岩波書店(新書版 全九巻)
昭和39・6 日本文學全集1『二葉亭四迷集』新潮社(中村光夫編、『浮雲』『茶筅髪』『小按摩』『其面影』『平凡』。「年譜」、中村光夫「解説」)
昭和40 『日本の近代文学 人と作品』読売新聞社(日本近代文学館編)
昭和42 Japan's First Modern Novel : Ukigumo of Futabatei Shimei / Translation and Critical Commentary by Marleigh Grayer Ryan Studies of the East Asian Institute / Unesco collection of representative works ; Japanese ser.// Columbia University Press. 昭和42・7/10 『浮雲』旺文社文庫(「作家苦心談」「余が言文一致の由来」「予が半生の懺悔」、広津和郎「二葉亭のリアリズム」、坪内逍遥「故二葉亭氏の性行」、関良一「解題」)
昭和42・10 現代文学大系1『坪内逍遥・二葉亭四迷・北村透谷集』筑摩書房(坪内逍遥『桐一葉』『小説神髄』『小説三派』『『マクベス評釈』の緒言』、二葉亭四迷『浮雲』『あひびき』『四日間』『小説総論』『余が言文一致の由来』『未亡人と人道問題』『予が半生の懺悔』、北村透谷『楚囚の詩』『蓬莱曲』『我牢獄』『宿魂鏡』『厭世詩家と女性』『各人心宮内の秘宮』『人生に相渉るとは何の謂ぞ』『明治文学管見』『復讐・戦争・自殺』『内部生命論』。「年譜」、中村光夫「人と文学」)
昭和43 『浮雲 改版』角川文庫
昭和43 現代日本文学館2『二葉亭四迷・国木田独歩』文藝春秋(日本近代文学館編)
昭和44・12 日本文学全集1『坪内逍遥・二葉亭四迷集』集英社(坪内逍遙『ハムレット(シェークスピア)』『細君』、二葉亭四迷『あいびき(ツルゲーネフ)』、『平凡』『浮雲』。小田切進「注解」、稲垣達郎「作家と作品」、「年譜」)
昭和45 日本の文学『坪内逍遥・二葉亭四迷・幸田露伴』中央公論社(谷崎潤一郎編、坪内逍遥『一読三歎当世書生気質』、二葉亭四迷『浮雲』『小説総論』『余が言文一致の由来』、幸田露伴『風流仏』『五重塔』『運命』『連環記』。伊藤整「解説」「年譜」。)
昭和46・11 『明治文学全集』第17巻、筑摩書房
昭和46・2 現代日本文學大系1『政治小説・坪内逍遥・二葉亭四迷集』筑摩書房(宮崎夢柳『自由の凱歌』、矢野龍渓『斉武名士経国美談』、坪内逍遥『桐一葉(読本体)』、二葉亭四迷『浮雲』ほか所収。〈付録〉柳田泉「政治小説の発達と文学改良運動」、河竹繁俊「逍遥の遺書と遺稿 自殺説と夫人の過去」、 川副國基「「小説神髄」について 文学革新期と英国の評論雑誌」、 中村光夫「「浮雲」と文学抛棄」、石橋忍月「浮雲第二篇の褒貶」、「政治小説年表」「坪内逍遥年譜」「二葉亭四迷年譜」「政治小説書目・著作目録」)
昭和46・3/10 日本近代文学大系 第4巻『二葉亭四迷集』角川書店(田中保隆解説、畑有三・安井亮平注釈、『浮雲』『平凡』『あひびき』『めぐりあひ』『小説総論』『作家苦心談』、「参考文献」)
昭和47・3  『浮雲 改版』岩波文庫、第33刷改版(中村光夫「解説」)
昭和49 『近代日本の文学』双文社出版(川副国基「近代日本の文学概観」、二葉亭四迷『浮雲』、樋口一葉『十三夜』、泉鏡花『高野聖』、国木田独歩『少年の悲哀』、田山花袋『一兵卒』、正宗白鳥『迷妄』、夏目漱石『こころ』、森鴎外『妄想』、永井荷風『狐』、谷崎潤一郎『刺青』、有島武郎『クララの出家』、志賀直哉『好人物の夫婦』、葛西善蔵『哀しき父』、芥川竜之介『奉教人の死』、「作家・作品解説」「参考文献」)
昭和49 アイボリーバックス『日本の文学』1(坪内逍遥・二葉亭四迷・幸田露伴)中央公論社
昭和49 『日本文学全集』1(坪内逍遥・二葉亭四迷)集英社
昭和50・8 近代日本文学1『二葉亭四迷・尾崎紅葉集』筑摩書房
昭和52・1 『浮雲 改版』新潮文庫
昭和52・9/15 筑摩現代文学大系1『坪内逍遥・二葉亭四迷・北村透谷集』筑摩書房 (坪内逍遥『桐一葉』『小説神髄』『小説三派』『『マクベス評釈』の緒言』、二葉亭四迷『浮雲』『あひゞき』『四日間』『小説総論』『余が言文一致の由来』『未亡人と人道問題』『予が半生の懺悔』、北村透谷『楚囚之詩』『蓬莱曲』『我牢獄』『宿魂鏡』『厭世詩家と女性』『各人心宮内の秘宮』『人生に相渉るとは何の謂ぞ』『明治文学管見』『復讐・戦争・自殺』『内部生命論』。「坪内逍遥年譜」「二葉亭四迷年譜」「北村透谷年譜」。中村光夫「人と文学」)
昭和56・1 明治文学全集17『二葉亭四迷・嵯峨の屋おむろ集』筑摩書房 (中村光夫編、二葉亭四迷『新編浮雲』『あいびき』『めぐりあひ』『小説総論』『余が翻訳の標準』『余が言文一致の由来』『予が半生の懴悔』『くちば集 ひとかごめ』『落葉のはきよせ 二篭め』『落葉のはきよせ 三篭め』。嵯峨の屋おむろ『無味気』 『薄命のすヾ子』『初恋』『くされたまご』『野末の菊』『流転』『夢現境』『世の中』『小説家の責任』『方内斎主人に答ふ』『平等論』『宇宙主義』『真理を発揮する者は天下其れ唯詩人あるのみか』『三春放言』『我家』『文学者としての前半生』『春廼屋主人の周囲』。中村光夫「二葉亭四迷」、関良一「「浮雲」の発想 」、柳田泉「嵯峨の屋おむろ伝聞書」、笹淵友一「矢崎嵯峨の屋」。)
昭和57・4/30 岩崎少年文庫23『日本の近代文学 名作への招待』岩波書店(二葉亭四迷『浮雲』、幸田露伴『五重塔』、国木田独歩『源叔父』、徳富蘆花『思出の記』、夏目漱石『草枕』、「晶子・啄木の詩歌」、「子規・虚子の俳句」。森鴎外『高瀬舟』、芥川竜之介『鼻』、志賀直哉『城の崎にて』、菊地寛『父帰る』、武者小路実篤『友情』、川端康成『伊豆の踊子』、「北原白秋の詩」。小林多喜二『蟹工船』、宮沢賢治『風の又三郎』、島崎藤村『夜明け前』、山本有三『路傍の石』、横光利一『旅愁』。下村湖人『次郎物語』、谷崎潤一郎『細雪』、野間宏『真空地帯』、壺井栄『二十四の瞳』、井上靖『天平の甍』。)
昭和57・5 カラーグラフィック7『明治の古典』学習研究社
昭和59・11 『二葉亭四迷全集』第1巻、筑摩書房(十川信介・安井亮平編集)
昭和60・5 日本の文学1『浮雲・あいびき』ほるぷ出版
平成12・9/15 明治の文学5『二葉亭四迷』筑摩書房(『浮雲』『平凡』『あひゞき(ツルゲーネフ)』『あひゞき (改訳)』『余が翻訳の標準』『余が言文一致の由来』『私は懐疑派だ』『予が半生の懺悔』、高橋源一郎「失敗の英雄」、「明治文学年表」「二葉亭四迷年譜」)
平成14・10/25 新日本古典文学大系 明治編18『坪内逍遥 二葉亭四迷集』岩波書店(青木稔弥・十川信介校注、坪内逍遥『細君』『春風情話(スコット原著)』『稗史家略伝并に批評』、二葉亭四迷『浮雲』)
平成16・10/15 『浮雲』岩波文庫(青木稔弥・十川信介校注)
平成22・2/28 『もてない男訳 浮雲』河出書房新社(小谷野敦)

縮刷版や改訂版は分かった範囲で記したが、右は基本的に出版時の情報であり、多くの標目が幾度となく刷りを重ねてきたものと思われるので、年代による出版点数の偏在が、そのまま享受の濃淡を示しているわけではない。

ただ、戦後に成っての出版点数が可也の割合を占めることは一目瞭然であり、近代文学研究の興隆と軌を一にする現象だと思われる。ということは、多くのテキストが近代的な組版ルールに従った改編を原文テキストに加えていることを意味し、その上、前書や挿絵の割愛をともなったものが多いということであり、研究に使用する場合は注意が必要である。

▼1.岩波ジュニア新書440 『カラー版 本ができるまで』(2003年、岩波書店)
▼2.これら組版に関する事項に関しては、奈良女子大学の鈴木広光氏より御教示を得た。
▼3.稲垣達郎「『浮雲』の本」(『稻垣達郎學藝文集』1、1982、筑摩書房)には、「[…]『小説神髄』のような和装ではない。と共に、洋風といっても、ボール表紙南京綴じの、古馴染のものでもない。角背の紙装本で、軽快瀟洒である。[…]裏表紙は、赤枠の中央に大きく、版元金港堂原亮三郎のRHの装飾文字を組合せたマークを置いている。おそらくは、清新だったにちがいない。一、二篇ともおなじ調子である[…]」と記されている。
▼4.清水茂「「〈新|編〉浮雲 第一篇」のテクストについて」(「国文学研究」38、早稲田大学国文学会、1968年9月)では、初版本第一種の特装版としている。なお、第一編5種と全集4種の校異表が付されている。
▼5.稲垣達郎氏執筆の「浮雲解説」(『新選 名著複刻全集 近代文学館 解説』、1970、日本近代文学館)では「第二編発行のころ、その体裁に合わせ、初版の刊記で刊行したものか、それとも、前記の合本発行の次元で、初版刊記で改版発行したものか、前者のような気がするが。」と記されているが、備考に示した「朝野新聞」明治21年8月3日の広告等から、第二篇の発行後に出されたものと考えて差し支えない。
▼6.科学研究費補助金 (基盤研究(C))「二葉亭四迷「浮雲」の電子データ化およびそれに基づく各種索引と研究」 (2009〜2011年度、研究代表者 半澤幹一) 報告書(CD-ROM版)に、「初版再版異同一覧」「漢字索引」「語彙索引」等と倶に遠藤好英氏蔵本 (原表紙欠)の画像データが付されている。
▼7.十川信介「解説」 (岩波文庫『浮雲』、2004)などでは、その効果について言及がある。
▼8.半沢幹一「二葉亭四迷の漢字――『浮雲』における字法」(『漢字講座』第9巻 近代文学と漢字、明治書院、1988、所収)など。

付記 半沢幹一氏(共立女子大学)には本稿の執筆機会が与えられました。また、『浮雲』諸板の所在などに関しては木戸雄一氏(大妻女子大学)より、組版に関しては鈴木広光氏(奈良女子大学)より多くの御教示を得ました。資料調査には国文学研究資料館「近代書誌・近代画像データベース」「明治期出版広告データベース」を利用しました。蒙った学恩に心より感謝致します。
(たかぎ・げん/大妻女子大学)



#「付録(3) 書誌」
#『日本語研究法〔近代語編〕』 (青葉ことばの会編、おうふう、2016年9月15日)所収
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#                 大妻女子大学文学部 高木 元  tgen@fumikura.net
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