されど文学部が日々
高 木   元  

当事者(国立大学法人職員)ではなくなった者が、今更、何を云ってみても始まらないのかも知れないが……。

実は何も唐突な事ではなく、以前から極めて分かり易い伏線は敷かれていた。第二期中期計画の区切りの年に、文部科学省が全国の国立大学に対して「教員養成系学部と人文科学系学部との縮小廃止」(の検討)を通達してきた。千葉大学に対しても、昨年度2月に「文学部を一学科制に改組することを検討して欲しい」と云う示唆(新学部設置を人質にした脅迫)が事務局長を介してあり、文学部教授会は、この実質的な命令に対して何等の選択の余地もなく、僅か2週間で一学科への改組を呑まされてしまった。結果的に、来年度からは千葉大学文学部には「日本文化学科」のみならず「行動科学科」も「史学科」も「国際文化学科」もなくなる。誰が如何に考えてみても、文学部に「文学科」しかないのであれば、ことさらに「学科」を置いておく意味などない。

実際のところ、文科省(安倍政権)の意図は明らかである。仍ち、今後の若者人口減少に連動する学生定員の削減と、それに見合うだけの教員定数の減員とを、予め制度的に担保して措きたいと云うことに過ぎない。と同時に、〈国民の税金を有効に遣う〉ために、国立大学には所謂〈実学〉だけを残すと云う。全く以て、莫迦を云うのも休み/\にして欲しい。国立大学の独法化以降、毎年運営交付金は1%ずつ減額され、当初から考えれば既に10%以上も減らされた。その上、文科省の匙加減一つで増減できる傾斜配分の割合が増加している。つまり、独法化して以降、実質的に文科省の支配力は益々強固に成ってきたのである。嘗ての大学に保証されていた〈自由と自治〉は、最早風前の燈火である。

所謂〈実学〉系学部に於いて、産学協同路線が既成事実化した時点で、既に〈学問の自由〉は死に絶えたと云っても過言ではないかもしれない。政治献金(公然的賄賂)が政権政党の政策を決定付けているのと同様に、企業から金を貰った途端に大学における研究に対しても〈実利〉が要求されるのは理の当然だからである。

そもそも国立大学では基礎学を、応用実用化は企業でと云う研究の棲み分けが做されていた筈である。この発想は大学が非営利であることが前提である。目先の利益を顧みずに、将来的に不可欠だと思われる基礎研究を国が保証する機関としての国立大学であったならば、国立大学には文学部と理学部とがあれば用は済む。また、これらの基礎研究とその教育とに必要な費用は、実学系とは比較にならないほど僅かなものである。

税金の無駄遣いと云えば、復興税も企業からの徴収は一年で廃止したのに、国民の負担している基礎的税金からは徴収され続けており、剰え国家公務員(独法の職員)から2年間、平均7%も天引きを続けた。而してその後発覚したのは、転用や無駄遣い、そして多額の余剰金であった。国民の半数以上が反対している原発の再稼働を推し進め、かつ社会保障費を削り、無駄遣いの最たる防衛費を増額し続けている。斯様にして、景気高揚のためと称し、国民の大多数を占める労働者の利害を大幅に損なう、大企業本位の政策を強引に推し進め、只管戦争への道を邁進している現在の政治状況は、可也ヤバいと思う。これが所謂「戦後民主々義」の、実質的に行き着いた果てなのであろうか。

靖国神社にA級戦犯が合祀されて以来、閣僚や国会議員等が参拝して、亜細亜諸国との摩擦を拡大し続けてきた。「亜米利加から押付けられた憲法を廃止し、自主憲法を制定する」と云いつつも、現実的には恰も属国の如く、唯々諾々と戦争をし続ける米国に追随しており、愈々分けが判らない。愛国を自称する人達も「ふつ〜の国」とか云いつつ、何故〈反米〉を掲げないのであろうか。

わが文学部が担ってきた教育研究もまた基礎学である。知識だけでは確実に明日の飯の喰い種にはなり得ない。しかし、和本リテラシーや崩し字の読解は、何処で誰が教えて次世代に継承するであろうか。高々百年前に書かれた文字を読める人が激減している現状で……。

知識は基礎学に拠って培われ、そして人として生きていく上での智惠に昇華する筈である。これが実学でなくて何であろうか。

(大妻女子大学文学部教授) 


# 「されど文学部が日々」
# 千葉大学文学部日本文化学会「会報」第16号(2015年7月)所収
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#               大妻女子大学文学部 高木 元  tgen@fumikura.net
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