十年一日
高 木  元 

当時さほど珍しいことではなかったが、私は30歳を過ぎてから、(今はなき)東京都立大学の大学院に入学した。1989年に「第15回日本古典文学会賞」を頂いた。年齢制限ぎりぎりの博士課程3年の時であった。若手国文学者の登龍門と称せられていた古典文学会賞を頂戴できるとは想像だにしていなかった。

江戸読本の実質的な板元は貸本屋であり、江戸読本の流行を演出したのは鶴屋喜右衛門であるという発見は、文化期の読本の書誌調査に基づくものであり、修士論文の柱でもあった。あれから18年の歳月を経て、相変わらず読本の書誌調査を続けている。『読本出板年表』を完成させるためである。

世の中には10年1日で良いことがある。地道な国文学研究もその1つだ。昨今の国文学研究の衰退は、主として外的な要因に拠るものだが、既に取返しが付かない事態に至ってしまったのかもしれない。

(たかぎげん・千葉大学)

# 「十年一日」(『日本古典文学会のあゆみ』所収)
# 日本古典文学会会報 別冊(終刊号)、財団法人 日本古典文学会、2006年12月
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